一針一針の手仕事に、こだわりを込めて。 catch
#85

和裁

一針一針の手仕事に、こだわりを込めて。

仕立 幸村
片山 聡美さん

動画を見る

反物から着物を仕立てる伝統的な技能、和裁。丁寧な手仕事を積み重ねる仕立てやお直しの作業は、日本の着物文化を担う重要な仕事でもあります。和裁の仕事について、仕立 幸村の片山聡美さんにお話を伺いました。

家具製作から着物の世界へ

家具製作から着物の世界へ

着物に興味を持ったのは、高校生の時、亡くなった祖母の着物を着てみようと思い、着付け教室に通ったのがきっかけです。それから少しずつ着る機会が増え、着物の世界を知るうちに、いろいろと欲しくなり、古着屋めぐりをするようになりました。高校・大学は工芸系の学科に進み、家具製作を学んで、若年者ものづくり競技大会、技能五輪に出場。卒業後はゼネコン(総合建設会社)の木工部署に就職、備付家具や受付カウンターの製作などに携わりました。つくること自体は好きでしたが、体力的に限界を感じ、転職を考えるうちに、好きだった着物を仕事にしたいと思い、職業訓練校で和裁の基本を学び、この道に進みました。

縫いまでの段取り

縫いまでの段取り

和裁を始めて約3年。屋外で汗だくになって家具と向き合っていた木工の世界から、室内での座り仕事になりましたが、ずっと座って手を動かしている縫い作業も、意外と体力を使います。仕事では、まず反物が届いたら、汚れやキズ、染めムラ、糸切れなどを確認する「検反(けんたん)」、反物の長さを確認する「検尺(けんじゃく)」を行います。その後、アイロンがけをして生地の歪みやたるみを整え、縮みを防ぐ「地直し」を行った後、先生にお願いして、お客様の寸法に合わせて裁断し、生地の各部分に正確な寸法を記すヘラ付けをしてもらい、縫い作業に取り掛かります。

真っ直ぐが、難しい

真っ直ぐが、難しい

今はまだ修行中の身で、裏地のない単衣の着物を一着縫い上げるのに3〜4日かかります。早い人は1、2日で縫い上げますが、私はまだ手が遅く、経験と慣れが必要です。難しいのは、真っ直ぐ縫うこと。真っ直ぐ縫い進むには、手縫いの基本である「運針(うんしん※)」ができなければなりません。でも、真っ直ぐしようと意識し過ぎると、かえって思う方向に進まず、曲がってしまいます。あまり意識せず、とにかく手を動かしていれば、だんだん縫い進む方向を手先の感覚で掴めるようになるので、何より、思い切りと慣れが大事だと思います。
※運針:手縫いで針を運ぶ際の基本的な技術で、並縫いのこと。

縫い方の意味と理由を知る

縫い方の意味と理由を知る

縫い方は、生地の特性によっても変わります。重い生地はたるみやすいし、同じ素材でも、縫いやすさ・縫いにくさは生地ごとに異なります。紬(つむぎ※)や縮緬(ちりめん※)、綿など、素材によって針通りが違うため、経験を積まないと、生地の特性やクセに応じた縫い分けはなかなかできません。縫うのが仕事ですが、ただ縫うのではなく、なぜ、ここは返し縫いをするのか、細かく縫うのか、といった作業一つ一つについて理由を考えることで、着物の仕組みの理解につながります。例えば、着た時に力が加わる部分は細かく縫うことで強度を出す、というように、理由を知ることで、縫い方も感覚として掴みやすくなります。丸覚えではなく、縫いの意味と理由を知ることが、着物の機能や部位の役割の理解につながる。そうやって縫い方を身につけることが、着やすい着物づくりにつながると思います。
※紬:蚕の繭から紡いだ丈夫な糸で織った織物 
※縮緬:絹を平織りした織物

引き出しを増やしていく

引き出しを増やしていく

毎日、いろいろな着物を縫っているので、寸法によって着姿がどう変わるかを意識するようになりました。和裁では、寸法を細部まで考えます。お直しでも細かく寸法を調整することで、着物はもっと着やすく、着心地のよいものになります。その重要性を知ったことで、自分も着物の寸法に対して敏感になりました。 今の時代、着物は特別なもの。その特別なものに日々触れているので、非日常の世界に生きているような感じがします。高価なもの、希少なものを含めて、いろいろな着物や反物を間近に見ることができるのは、着物好きとしてはすごく楽しいし、そこが、この仕事の魅力だと思います。木工の仕事をしている頃から、お客様と直接関わる仕事がしたいと思っていたので、自分の手がけた着物がお客様に喜んでもらえるのは何よりの幸せです。

オリジナル仕様のくけ台

くけ台は、運針などの際に布が弛まないよう引っ張りながら縫うためのもので、和裁に欠かせない裁縫道具です。私は、前職の木工時代の友人に頼んでオリジナル仕様で作ってもらいました。通常は、木製の板と棒を直角に組み合わせた構造ですが、丸棒は回転して使いにくいので、ピッタリ収まるように角棒にしています。さらに、市販品のような板と棒が折り畳める形式ではなく、取り外せるようにしてもらったことで、持ち運びも便利です。こだわり満載の片山オリジナルのくけ台は、毎日大活躍しています。

オリジナル仕様のくけ台
社名 仕立 幸村
メールアドレス kimono.yukimura@gmail.com
主な業務内容 和服全般の企画・販売・仕立て・仕立て直し・お手入れ等
ホームページ 仕立 幸村のホームページへ

#動画で見る

#バックナンバー

日々、技と向き合う楽しさに、 心から喜びを感じて#109

日々、技と向き合う楽しさに、 心から喜びを感じて

奈良・平安時代に仏教と共に伝わったとされる、表具。糊と刷毛を使って、和紙や裂地(きれじ)を張り、加湿と乾燥の加減をみながら、掛軸や屏風、襖(ふすま)、障子(しょうじ)などを仕立てる繊細な仕事です。表具…

詳しくはこちら

匠の技と最先端のものづくり技術の今を体感!(後編)#108

匠の技と最先端のものづくり技術の今を体感!(後編)

ものづくりの伝統的な匠の技と最先端技術が集まる一大イベント「ものづくり匠の技の祭典2025」。今回は、大勢の参加者で賑わった出展ブースの様子をレポートするね。どのブースも、趣向を凝らした体験プログラム…

詳しくはこちら

匠の技と最先端のものづくり技術の今を体感!(中編)#107

匠の技と最先端のものづくり技術の今を体感!(中編)

日本のものづくりを支えてきた伝統的な匠の技と最先端のものづくり技術が集結した、「ものづくり匠の技の祭典2025」。今回は、さまざまな分野の匠たちが実演を通じて卓越した技を披露したスペシャルステージの様…

詳しくはこちら

匠の技と最先端のものづくり技術の今を体感!(前編)#106

匠の技と最先端のものづくり技術の今を体感!(前編)

2025年7月25日(金)〜27日(日)の3日間、東京都立産業貿易センター浜松町館で、「ものづくり匠の技の祭典2025」が開催されたよ。10回目を迎えた今回、10周年を記念する特別作品として、祭典を象…

詳しくはこちら

中国料理の奥深さに魅せられて#105

中国料理の奥深さに魅せられて

数千年に及ぶ歴史とともに、それぞれの地域の気候や風土、食材、調理法に応じて多様な食文化を育んできた、中国料理。大きく北京料理、上海料理、四川料理、広東料理の4大流派に発展し、日本人にとっても身近な食と…

詳しくはこちら

自らの手と感覚で掴んでいく、高精度の接合技術。#104

自らの手と感覚で掴んでいく、高精度の接合技術。

熱や圧力で金属を接合する技術―溶接。鉄やステンレス、アルミなどを高い強度と剛性で接合できることから、金属加工における重要な技術として、幅広い分野の製品、部品の製造に利用されています。溶接を手がけている…

詳しくはこちら

クライアントの課題解決に向け、 ベストのデザインを導き出す。#103

クライアントの課題解決に向け、 ベストのデザインを導き出す。

パンフレットや広告、出版物などの印刷媒体をはじめ、ロゴマークやシンボルマーク、商品パッケージ、Webサイトなどを対象に、写真や文字、イラスト、色彩などの視覚要素の配置や組み合わせを工夫し、メッセージや…

詳しくはこちら

実践的な職業能力の開発・向上を目指す、多彩な訓練科目。#102

実践的な職業能力の開発・向上を目指す、多彩な訓練科目。

仕事の現場で求められる知識や技術、技能の習得、能力向上を目的とした職業訓練を行う、東京都立城東職業能力開発センター江戸川校。ものづくり系を中心とする多彩な職業訓練科目を設置し、求職者の職業能力開発や就…

詳しくはこちら
  • はたらくネット
  • ものづくり・匠の技の祭典2025
  • 東京マイスター
  • 技のとびら
  • 東京都職業能力開発協会
  • 中央職業能力開発協会
TOPに戻る
TOPに戻る2