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日々、技と向き合う楽しさに、 心から喜びを感じて catch
#109

表具

日々、技と向き合う楽しさに、 心から喜びを感じて

ニックインテリア
中村 祐太さん

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奈良・平安時代に仏教と共に伝わったとされる、表具。糊と刷毛を使って、和紙や裂地(きれじ)を張り、加湿と乾燥の加減をみながら、掛軸や屏風、襖(ふすま)、障子(しょうじ)などを仕立てる繊細な仕事です。表具を手がけるニックインテリアの中村祐太さんにお話を伺いました。

楽しさが、ずっと続く

楽しさが、ずっと続く

結婚して子供が産まれるタイミングで、表具を手がける会社に入社しました。当時は表具という言葉も知りませんでしたが、現場で仕事に携わるうちに、だんだん面白くなりました。表具の仕事はシンプルで、使うのは紙と糊。それゆえ、ちょっとしたことが仕上がりに影響します。そこが楽しくて、どんどんのめり込み、「次は、こうしよう」「ここを変えてみよう」と自分で工夫と試行錯誤を繰り返すようになり、10年ほど勤め、2年前に独立しました。小学校の頃、図工や模型づくりなど、手を使うことが好きだったので、表具の仕事は、肌に合ったのかもしれません。

余韻を残す

余韻を残す

元請けの工務店から話がくると、まず現地調査のためにお客様のところへ伺い、現場を見て、どんな材料を使うか、どういうイメージで、どこまで施工するかを相談した上で着工します。一軒家の襖をすべて張り替える場合、打ち合わせに1日、お宅に伺って襖を引き取り、作業場で張り替え、それを現場に納めるという段取りなので、全体でおおよそ3〜4日の工程で仕上げます。扱うのは紙なので、わずかでも汚れが付くと落とせません。作業場や自分の手はなるべくきれいにし、材料を汚さないよう、常に整理整頓を肝に銘じています。

腕は、仕上がりに表れる

腕は、仕上がりに表れる

造使うのは、紙と糊。シンプルだからこそ、技術が如実に出るし、誤魔化しが効きません。糊の種類、塗り方によっても変わるし、塗った瞬間に良し悪しがわかることもあれば、上手くいったと思っても、次の日にダメになっていることもある。気温や湿度も関係します。和紙もグレードの低いものから高いものまであり、材質によって難易度に差があるので、和紙自体に対する造詣がないと対応できません。昔の人は、湿度が高い夜しか仕事をしなかったり、一つの作品を作るのに一年かけて、四季を通じて糊を安定させてから使ったり、10〜15年ほど寝かした古糊という少し腐らせたものを使い、仕上がったものが安定するまで様子を見たり、手間と時間をかける丁寧な仕事をしていたと聞きます。それだけ使うものや環境、時の経過が影響する繊細な仕事でもあります。

見えない世界を、理で捉える

見えない世界を、理で捉える

作業はただ漠然と進めるのではなく、理屈を掘り下げて理解します。糊を塗る作業でも、澱粉が紙にどう張り付くのか、肉眼では確認できません。目に見えない世界のことを科学的な仕組みとして理解し、説明できるようになれば、そこから工夫につながる。そのために勉強し、科学的な原理まで理解するよう心がけています。一方、いろいろな材質のものを使い分けるには、土台となる表具の伝統的な基礎技術をしっかり身につけておく必要があります。私の場合は、勤めた会社が江戸時代から続く伝統工法の襖屋だったため、10年かけて身につけました。会社に入って7年目の頃、一度だけ、親方と1カ月間、二人きりで出張に行ったことがあります。24時間一緒にいるのは初めてで、その時に、自分はこの仕事を死ぬまでやるんだと実感しました。北九州の門司港という駅の古い社屋を復元する工事でしたが、そこで親方にみっちり教え込まれたことは、今も活きています。

天職として

天職として

親方からよく「思いやりのある人間になりなさい」と言われました。人としての姿勢が、仕事に出る。親方の後ろ姿に学ぶのは、技術より、人間性の部分。自分の親よりも影響を受けていると思います。表具は1千年以上の歴史があり、その歴史を受け継ぎながら、時代と共に形を変えていく。そういう仕事というのは、建設業の中では少ないと思います。古いものと向き合うと、科学的な裏付けのない時代に、トライ&エラーだけで、なぜこの領域に辿り着くことができたのかと、時の流れに耐えうる仕事をしてきた昔の職人の凄さを実感します。表具は男女・年齢問わずできる仕事だと思います。私自身は、何がハマったのかわかりませんが、どんなに忙しくても辛いと感じたことはないし、純粋に面白くて仕方ありません。仕事が嫌だと感じたことは一度もないし、天職だと思って、日々楽しく過ごしています。

道具には、手を入れる

昔、大工さんに「どんな道具でも買ったら、そのまま使うな。ちょっと手を入れるだけで、愛着がわくので、何かしら手を入れなさい」と言われ、以来、どんな道具も必ず、ひと手間加えるようにしています。買ったばかりの刷毛は毛足が長くて使いづらいので、コンクリートの床で毛量を減らします。刷毛は弾力によって感覚が変わるため、自分の好みに合うまで毛量を調整します。使い出すまでが大変なので、安易に買い替えたくはありません。仕事の量にもよりますが、10〜15年は使えます。すぐに痛むものは、江戸時代から続く刷毛屋さんに注文して作ってもらい、大事にストックしています。

道具には、手を入れる
企業名 ニックインテリア
所在地 東京都大田区本羽田1-9-3-1F

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