叩くことで伸ばし、縮める
単に“叩く”ということでは、ない。1枚の金属の板を叩いて伸ばし、絞り、形に仕上げていく。建築板金加工は、ひたすら叩くことで造作を生み出す。
「まず図面として、紙に仕上がりの大きさの絵を描き、板の取り都合を考えながら、“板取り”し、必要な板の大きさを計算します。描いた絵をタガネで線入れし、裏から打ち出し、さらに裏表から凹凸をつけることで形にしていきます。」
打ち出しには、叩いて伸ばす「叩き出し」と絞って縮める「絞り」があり、この2つの技法を繰り返すことで形をつくっていく。平板の状態から裏面を叩くと、表が膨らむ。ある程度、膨らみができたら、細部の輪郭を入れ、裏に返し、また叩く。この表裏の叩き出しを繰り返しながら、徐々に深くしていく、根気の要る作業。
「いきなり叩いて出そうとすると、板が切れてしまうので、だんだん薄く深くしていきます。遠目に見て左右のバランス、横から見た時の膨らみを確認し、均等に凹凸をつけながら仕上げていく。叩けば叩くほど、もっとこうしようというところが出てきて、終わりがない。やろうと思えばいくらでもできるし、手間をかけるほど、いいものができます。」
音が、語る
銅板は、定盤という台上で叩く。板は叩くと伸びて膨らむが、その時に浮いた状態だと、切れて穴が開く。
「私たち職人は、常に音を聞いています。切れる寸前、音が変わる。その変化を耳でとらえるようにしています。」
叩く音で、誰の作業かもわかるという。
「人によって、叩く音・リズムが違います。5回叩いて1回休む人もいれば、6~7回叩く人もいる。同じものを作っていても、力加減や癖があり、その音によって、どんな作業をしているのかがわかる。作業の始めと終わりでも音は違います。」
経験知で叩き方、リズムが変わる。叩いているからこそ、他人の作業も音で判断できる。経験と勘の世界。現場のすべての音に、理由がある。
道具は、人なり
道具もまた、手の一部。それゆえ、同じものを作るとしても、使う道具は職人ごとに異なる。
「叩き出す時に当て板として使う金床も、自分で使いやすいように削ります。金槌も丸みや握りを加工する。似ていても微妙な違いがあります。道具は、人なり。道具に、その人が表われます。使っているものを見れば、職人がどんな仕事をしているかはわかるものです。」
これでいい、と思えば、そこで終わる。でも、もっと、という欲が顔を出す。
「常に考えながら作業していますが、こうした方がもっとよくなる、次はこうしようと、どんどんつながっていく。創意工夫や課題に終わりはない。そこに面白さを感じます。」
雨樋などの住宅関連をはじめ、神社仏閣の屋根施工、そこに付随する装飾など、手がけるものは幅広い。だが、同じものを手掛けても、5年前10年前のものには、粗さが見えてくる。
「その当時は自分なりに必死で向き合ったのでしょうが、今ならこうするというのが見えてしまう。それが自分の進化であり、昔の自分と向き合う瞬間も大事だと思っています。」
成長は、技が奏でる音とリズムにも表れるものだろう。その進化した一打には、きっと新たな意味が込められている。
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