東京の匠の技

内装

東京内装仕上技能士会

飯島勇さん

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切る、貼る、合わせ伸ばす。その一連の手捌きが素早く鮮やかゆえ、誰にでもできるものと錯覚しそうになる。それほど、動きはシンプルである。だが、貼り終えた仕事の痕跡を見れば、どれほど的確で美しい仕上がりなのかが分かる。練り込まれた技には、一切の無駄がない。洗練されているがゆえに、ごく自然な動作を纏う。そこにこそ、技の真髄が隠されている。

技は、人なり

匠いわく、技とは、人。
「大事なのは、人柄です。日頃から礼儀正しくないと、それが仕事に表れる。仕事8 割、説明2 割。作業に取り掛かる前に、ユーザーと会話して、丁寧に説明する。作業後の説明は、すべて言い訳になります。最初にどういう施工をどのような段取りで行うかを説明し、起こりうるリスクも明らかにする。想定まで含めてできるのがプロです。」
空間を美しく快適なものにする、その最終段階を担うのが内装仕上げである。住宅や公共空間などの壁紙をはじめ、エレベーター内やサッシ周りなどの木目の化粧フィルムも手がける。貼りで肝心なのは、四隅だという。
「人の目は真ん中にはいかず、端にいくもの。継ぎ目と角を見る。そこに気を使います。」
施工は継ぎ目の配置と処理で、仕上がりが変わる。
「人の目線を考えて、上下の継ぎ目を決め、真ん中から貼っていきます。下から見上げる位置にくる継ぎ目は、合わせを上から差し込むように処理する。そうすると、見上げた時に継ぎ目が見えない。一方、見下ろす位置に継ぎ目がくる場合は、合わせを下から差し込むことで、目線から隠れます。」

引き出しを増やし、感性を磨く

自らの経験の引き出しを増やすためには場数も必要だが、どう貼ればいいのかを瞬時に判断するには、感性が求められる。16歳で、この世界に入って60年。表具の経験も持つ。独立後、内装技術の視察のため、海外へ渡る。32歳、45年前のことである。
「表具の世界で培ったものを持って世界の手法を学ぼうと考えました。パリのモンパルナスにシェラトンホテルができるというので、内装を見に行った。技術的には負けていませんでしたが、色、デザインが違う。まだ駆け出しだった日本には、そこまでのものはなかった。それから世界中を廻り、現場の作業手順などを学んだ。その経験が感性を磨くことにつながっています。行動しなければ、進化しません。」

人づくりで、裾野を広げていく

今でも、良いと思えば、すぐにやり方を変える。
「現場では、また変えたんですかといわれる。材料も良いものはすぐに取り入れるし、使ってみたい。でも、道具は自分で作り、改良します。例えば、壁紙の裁断には普通、カッターを使いますが、両刃なので、2~3枚切るとよれてしまう。私が使うのは、断ち包丁に手を加えたもの。片刃で、定規に当てるとぴったり揃い、一度に10枚くらい切ることができる。これは自分なりの工夫で、こだわりです。」
技は人に宿る。それゆえ、人づくりに重きを置く。
「職人はたくさんいる。でも、その中の一握りの存在になれるかどうか。それには、人としての自分に磨きをかけることです。面倒でも人を育てる。人を育てると、自分も成長します。順番に育てていけば、この世界の裾野も広がります。」
ひと手間・ふた手間を惜しまないこと。それが良い仕事につながる。技も人も、惜しみなく力を注ぐこと。そこから始まる。

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