紳士服

東京都洋服商工協同組合

松田義明さん

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匠の手に、一切の迷いは感じられない。凛と張りつめた空気を裂くように、裁ち鋏の乾いた音が静かに響く。年月をかけて磨かれた手技。その熟成は、無駄のない動きとなって、作業場に研ぎ澄まされた音色を奏でている。

洋服の普及と着心地の探求

仕立ての最大の利点は、個々の体型や身体的特徴に合わせた唯一無二の着心地を生み出すところにある。明治維新後の近代化とともに始まった洋装化は、1869(明治5)年11月12日布告の明治天皇勅諭「爾今、礼服には洋服を採用す」を機に一般に広まっていく。その一因に機能性、つまり、着やすさ・動きやすさがあったことは、当初、軍人や警察官、鉄道員などの制服として採用されたことからも明らかだろう。そして、こうした洋服の着心地を探求してきたのが、仕立てを担うテーラーである。

採寸法の革新

洋服づくりの教本がなかった当時、先人たちは努力と創意工夫を重ねながら、その技能を継承してきた。その系譜に連なる一人として、匠もまた、今の時代の洋服づくりを探求する。作業のすべてを一人で担う仕立ては、お客様と1対1で向き合い、その要望を叶えるため、採寸によって体型を測り、型紙に起こす。匠は、この採寸の工程に一石を投じた。世界初の「側面採寸」の考案である。
「通常は“胸寸式”といって、胸まわり、ウエスト、腰まわりを採寸します。でも、私はより正確に採寸するため、側面から見た身体の厚み、背中やお尻まわりの凹凸を測り、その人の体型的な特徴をより詳細に把握します。だから、補正する必要はありません。」
通常、仕立てにおいて補正は当たり前とされる。だが、正確に採寸したのであれば本来、補正の必要はないはずである。匠は、そこに疑念を抱き、補正しないことが「正」と考える。補正がなければ当然、仮縫いでピンを大量に打つこともない。前打ち合いに1本打てば、こと足りる。匠の革新は、採寸による身体把握の精度を飛躍的に向上させた点にある。

平面を立体へと変える、技

仕立ての工程において、包み込むような着心地を生み出す上で要となるのが「くせ取り」である。身体の丸みに合わせて、布地の真っ直ぐな織目をアイロンの熱とスチームで徐々に菱形に変形させながら、立体的な曲面を作っていく。この造型加工こそ、既製服と注文服の着心地・快適性を決定的に分かつ重要な作業工程となる。70年以上、服づくりと向き合いながら、匠は今なお、昨日より今日、今日よりも明日と、服づくりを前に進める努力を続ける。「服づくりはまず、“見る目を養うこと”。そして、いいと思ったことを取り入れていく柔軟性が必要です。でも技術については、本当に優れたものなら変える必要はない、そう思います。洋服は素材、作り手の技術はもちろん、最後にお客様が着こなして初めて完成するもの。なぜなら、私たちが作っているのは、紳士の服だからです。もし完璧なものが縫えたら、私は洋服屋を辞める。でも、まだまだでしょう。」
日々、努力と試行錯誤を重ねながら磨き込まれてきた、匠の技。それは一つの財産であり、その価値を次の担い手へ繋いでいくための試みが今、「匠アカデミー(※)」という学びの場として始まろうとしている。

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〒162-0844 東京都新宿区市谷八幡町13番
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