東京の匠の技

印章

東京都印章技能士会

奥村幸男さん

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わずか十数ミリの平面に人の名を刻む、緻密で繊細な作業。書体、文字のバランス・曲直に彫り手の技と表現を込める印章彫刻は、印面の極小世界に、美しく研ぎ澄まされた究極の小宇宙を描き出す。

文明と共に歩んできた、印章

暮らしや人生の重要な場面において、約束や存在の証となる「印章」。本来、印章とは紙に「印影」を押し印すものを指し、そこに朱色で印された印影のことを「印鑑」と呼ぶのを正とする。文明の発祥とともに生まれたとされる印章の歴史は古く、その起源は世界最古の古代メソポタミア文明にまで遡ることができる。その後、世界各地に広まり、日本においては、中国・漢の時代に贈られた「漢委奴国王」の金印が最古の印章とされる。1878(明治11)年には、現在の印鑑登録制度の基となる印影登録制度が交付され、公私を問わず証書に実印を用いることが定められ、印章は日本社会に根づいていく。現在では、他の国において印を押す習慣・制度はほとんどみられなくなり、日本独自のものとなっている。

小さくも美しき印章彫刻の世界

「彫る」という技術において、印章づくりは今も昔も変わりはない。書体を選び、文字バランスを練り、印面に字入れをし、荒彫り、仕上げへと進む。だが、印章は一つとして同じものはできない。依頼を受けて彫り、その数年後にまた同じ名前を彫る機会が巡ったとしても、彫り上がるものは、決して同じではない。いかに精緻な技術を持って印面に同じ印影を彫っても、再現性があるわけではないという。
「その時の自分の心のありようや体調、環境など、さまざまな要素が関わって、その1本が仕上がります。印影づくりとは一回性のものであり、それこそが、人の手によって生み出すものの面白さだと思います。」

暮らしや人生に寄り添うものとして

人生における節目で大切な役割を果たすものとして、印章は時を越えて、その姿を紙面に残していく。印面というわずか数十ミリの限られた領域に、名前という個性を彫り込み、そこに唯一無二の表現を刻んでいく。同じ書体を使ったとしても、彫り手の個性・感性・表現力で、異なるものが彫り上がる。印面の小宇宙に浮かぶ個性的な文字配列は、それが朱肉を湛えた時、美しい印影となって紙上に浮かび上がる。
祖父の代から印章を手がける家系だが、家業に興味はなかった。この世界に足を踏み入れたきっかけは、父親の早すぎる他界。家業を絶やすまいとの想いで、技術に磨きをかけてきた。今、先代が残した印章を、自らの実印にしている。
「今見れば、いい仕事をしていたのが分かります。」
それは、未だ越えることのできない技の頂として、自らの目指すべき指標でもある。「印章づくりは、毎回が勝負。どうすれば、お客様に喜ばれるものができるのか。彫るという技能に終わりはありません。」 日々、人の名と向き合いながら、そこに唯一無二を彫り込んでいく。

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〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-4 印章会館内
電話番号:03-3261-1017

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