タイルの歴史
タイルの歴史は古い。紀元前3,000年頃のエジプト王朝の時代、壁や床の材料として使われ、ピラミッドの地下通路の壁に張り付けられていた水色のタイルが最古のものといわれる。日本では、奈良時代に中国から入ってきた“磚(せん)”という煉瓦が、その始まりとされる。
「粘土などを型に入れて窯で焼き固めた敷瓦のような材料で、寺院建築など、特別な場所で高級品として使われていたそうです。日本でタイルが普及するのは、明治時代。西洋化に伴い、洋風建築が煉瓦で作られ、暖炉や床に装飾タイルが使われるようになり、煉瓦職人がタイルも手がけたのが前身とされています。それが1923(大正13)年の関東大震災で倒壊したことから、堅牢な建築としてRCが注目され、それまで床材として使っていたタイルを壁に張り、煉瓦建築風に仕上げる発想が生まれた。昭和初期までは高級品として扱われ、当時の帝国ホテルや日銀の建物などにも使われています。」
経験と感覚で見極める、技
日本におけるタイル張りの技法として、最も伝統的な工法が「積上げ張り」である。
「タイルの裏にモルタルを団子状にのせて張り付けるので、俗に“団子張り”ともいわれます。この技法は、今でも通用するものですが、高い技術が求められるため、修得までに年数がかかり、きれいに早く仕上げるには熟練を要します。」
タイルの耐久性は、その張り方で変わる。
「モルタルの水加減は、その日の天候を見て調整します。前日が雨なら、下地が水を含むため、水気を少なめにし、材料を硬めにして施工する。快晴なら、下地が乾いているので、少し水気を多くする。それでも乾燥が早い時は、下地の止水処理としてシーラーを塗り、水の引きを少なくします。セメントは水分反応で固まるため、水気が早く抜けてしまうと、硬化不良を起こすからです。これらはすべて、経験と感覚。それで見極めます。」
今は、「圧着工法」が主流。平らな下地に薄くモルタルを塗り、接着剤や接着セメントで貼るだけ。簡単で素早く、きれいに仕上がる。だからといって、「積上げ張り」の技術がなくなれば、タイル張りの土台となる技術が失われ、技能としての価値は消える。それは、この世界を支えてきた継承すべき技と伝統の喪失を意味する。
手が覚える仕事
30年以上、この世界で生きてきた。もともと父親がタイル職人だったが、後を継ぐ気もなく、暇だった時、他店で人手が足りなくなり、アルバイトに駆り出された。だが、それが人生を大きく変える。
「その時、“これは天職だ”と思いました。そのまま親方に雇ってもらい、24歳で独立、今に至ります。」
当時、職人の世界の自由さが魅力だったという。
「気が向かなければ仕事をしない。そんな人がたくさんいました。でも同時に、毎回が勝負の厳しい世界でもある。やめていく人もいる中で、今まで続けられてきた。それは1件1件の積み重ねです。」
信頼されなければ、次につながらない。お客様に喜んでもらうために、丁寧な仕事をすること、ただそれだけ。手が覚える仕事。その感触は、過去から未来へ続いている。
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