仕立て直し、生地を活かす文化
着物には、“仕立て直し”というものを大切にする合理的な文化がある。そのために、あえて手縫いにこだわり、後々、縫い目が残らないような縫い方を工夫する。
「洋服の場合、生地を型紙に合わせて切るので、どうしても捨てる部分が出ます。でも着物は、始末されているところはすべて内側に入るので、捨てるところがない。衿や身頃などは、布使いを変えたり(前後入れ替えや衿を切り替えなどの繰り回し)、あらかじめ着物の内側の帯下に施しておいた“内揚げ”という縫い込みを出し入れすることで身丈を変えたりすることができます。着物は、その家の中で、改変して長く着ることを前提にして作られており、7歳の女の子の着物は、将来、大人になっても着られるようにできている。一枚の反物をすべて無駄なく使い切り、長く着られる。着物は、今の時代に合ったエコでサスティナブルなものだと思います。」
こだわりの集合体
縫い方には個々の流儀があり、こだわりがある。
「かたちについては、美的センス。釣り合いに関しては、良し悪しがあり、縫いの形に関しては、それぞれの美意識。見える部分の美しさだけでなく、見えない部分の美しさもあります。」
縫い目をなるべく表に出さないようにし、生地の片側をかぶせて折り目をつける “きせ”という部分がある。
「両側の生地を引っ張ると縫い目が見えてきますが、最初に和裁を習うと、“きせ”は目安として五厘(2ミリ)くらいと教わります。でも、それだと多い。こだわると、“きせ”はあえて少なくする方がきれいです。そうした細かいこだわりの集合体が和裁です。丸いところは丸く、角は角にする。そして、美しい線を目指す。袖口は、真っ直ぐなところはもちろん、きれいな曲線も出したいし、褄の形、襟先の形は美しい線にしたい。こだわりは限りなくあります。」
反物の美しさを、着物に宿す
いまだ完璧と言える仕事はないという。すべて同じ生地は、一つとしてない。織によって違うし、糸の太さ、打ち込みの仕方、糊の効き具合など、すべての条件が異なる。
「着物は生き物。毎回が新しい挑戦であり、その都度、違う課題が見えてくる。一生、勉強だと思います。それだけ奥の深い世界。それゆえ、やりがいがあります。」
反物を着物というかたちにするため、手間をかけ、こだわりを持って作り上げていく仕事。反物の魅力、そこに描かれた美しさを、一枚の着物という形にして命を吹き込む。その唯一無二のものを丹念に生み出していくのが、和裁という手技の本質である。
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