紳士服の製造は、高級紳士服に分類される個別職人仕立てによる「フルオーダー(Full Order)」と、既製服と呼ばれる工業生産による「レディーメード(Ready Made)」に大きく分かれます。今回、「フルオーダー(Full Order)」の仕立てを行うテーラー(注文洋服店)で裁縫師として活躍されている株式会社髙橋洋服店の小松原智喬さんにお話を伺いました。
縫うこと自体が、楽しい
学生時代から服が好きで、服飾業界で専門職に就きたいと思っていました。大学4年の時に服飾専門学校のスタイリストコースに通い始め、そこで生地や服飾の歴史など、ファッションに関する基礎的なことを学ぶ中で、いちばん楽しかったのが縫製の授業でした。ミシンをかけることで2枚の布が合わさり、それが服として立体的になっていくことに驚き、純粋に感動しました。縫うこと自体が楽しく、もっと知りたいと思い、卒業後、縫製担当の先生から個人レッスンに誘われたのを機に習い始めました。その後、テーラーという職種に興味を持つようになり、当時住んでいた家の近くの店に弟子入りし、5年間の下積みを経て、髙橋洋服店に移り、5年目になります。
特別な一着のために
現在、上着の縫製を担当しています。当店では、お客様の大切な一着を一人の職人が担当してすべて縫い上げます。お店のスタッフがお客様の採寸をして型紙を作り、生地を裁断し、それを私たち縫製担当がアトリエで縫い上げ、パーツを組み上げて形にします。胴体部分を縫い、襟をつけ、袖をつけるというのが基本的な順番で、一着を縫い上げるのに約50時間、日数に換算すると4〜5日くらいかかります。当店は、テーラー業界ではかなり大所帯なので、先輩をはじめ、自分と同年代の職人や後輩もいて、知識、技術を含め、周りからいろいろ吸収できる環境にあります。日々、服づくりに取り組む私たちにとっては数ある中の一着だとしても、お客様からみれば、特別な一着です。「これでいいや」というおざなりな作業をするのではなく、「これがいい」と自信を持ってお渡しできる仕事を心がけています。
苦しさの先にある達成感
服づくりのプロセス自体は、苦しいものです。すごく高額でお客様に対する責任があり、ミスをしないかという緊張感やプレッシャーもあります。専門学校時代に2枚の生地がつながって感動したような単純な楽しさは、今はありません。でも、その苦しいプロセスを経て、一着を縫い上げた時の達成感はとても大きく、そこに楽しさややりがいを感じます。たまにお直しの仕事がありますが、10年以上前に仕立てた服を直しながら大切に着ていらっしゃるお客様に接すると、作り手として嬉しい思いと同時に、改めて自分自身も、一つのものを大切にして長く使おうという気持ちになります。
小さな成長を積み重ねていく
まだ10年そこそこのキャリアですが、苦手だったことができるようになるとすごく嬉しいものです。どの仕事でも同じだと思いますが、今日頑張ったから、明日すぐ結果に結びつくということはありません。小さな積み重ねが大切で、振り返った時、1年前にはできなかったことができるようになっている、そういう成長を感じられるところに楽しさがあります。自分のねらい通りに縫い上がった時は、「あ、うまくいった」と背筋がぞわぞわっとする瞬間があります。そういう手応えを糧にしながら、少しずつできることが増えていくところに、ものづくりとしてのこの仕事の魅力があると思います。
長く愛される一着を手がける
オーダースーツは上着、ズボン、ベストの3点で構成されますが、上着にもいろいろ種類があり、タキシードや燕尾服など、フォーマルなものは難度が高く、縫えるようになるには、技術と経験を積まなければなりません。フォーマルな服も扱えるように、自分の技術を高めていきたいと思います。テーラーという仕事は、専門的に学べる学校があるわけではないし、なかなか興味を持つきっかけを掴めない職種かもしれません。でも、真摯にものづくりと向き合う仕事として、一人でも多くの人にテーラーという仕事を知ってもらえたら嬉しいですね。
指先に、職人の証
服づくりで使用する道具には、布地の裁断に使う「裁ち鋏(たちばさみ)」、中指につけて針の頭を当てて使う「指貫(ゆびぬき)」、布を押さえたり穴を開けたりするのに使用する「目打ち」、毛抜き、アイロンなどがあり、すべて自分で選びます。服づくりの職人は、針を通す時に、布の裏側で針を指先に当てて戻すため、その針が当たる部分の爪や指先が白く硬くタコのようになります。そういう指をしていることが職人の証でもあります。
社名 | 株式会社髙橋洋服店 |
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本社所在地 | 東京都中央区銀座4-3-9タカハシクイ-ンズハウス3F |
TEL | 03-3561-0505 |
主な業務内容 | 注文紳士服製造及び販売 |
ホームページ | 株式会社髙橋洋服店のホームページへ |