東京ビッグサイトをメイン会場として開催された「Tokyo技能五輪・アビリンピック2021」、「ものづくり・匠の技の祭典2021」は大盛況のうちに幕を閉じました。それぞれの現場の様子は、 「Tokyo技能五輪・アビリンピック2021」の公式マスコット・ものづくり部部長の「わざねこ」が#13~16の記事でリポートしてくれました。会場では「わざねこ」の立体像が展示されており、来場者の方々に大人気。今回は、その「わざねこ」立体像の製作秘話をご紹介するため、東京都立城南職業能力開発センター 大田校へ。東京ビッグサイトに展示された経緯や製作の流れなどを広告美術科の安田先生に伺いました。
ものづくりの技術や喜びを学べる、地域に根差した職業訓練校。
ものづくりの街・大田区ということもあり、本校はものづくり関連の科目が多いのが特徴です。私が指導する広告美術科では、看板業・ディスプレイ業で必要とされる技術・技能の職業訓練を行っています。広告物の製作課題を通じ、デザインや設計、材料加工、製作、施工など、さまざまな知識・技能を学ぶことができます。校の講師陣には、その業界の経営者など現場を知る技術者が多く、当校の強みになっています。
1年間の訓練を終えて技能照査に合格すると、デザインの国家資格である「技能士補」を取得できます。
看板業・ディスプレイ業は、お客さまのご要望に合わせて企画・製作をしていく仕事。自分の表現・専門性を形にした成果物を評価していただくことで、社会に役立っている実感を得られるのが大きな魅力だと思います。
都庁に展示される立体像づくりに生徒のモチベーションも急上昇!
近年、コロナ禍で科目の関わっていたイベントが次々と中止になりました。生徒の作品発表の場や実習の機会がなくなってしまい、訓練に閉塞感がありました。そんなとき、2021年の技能五輪が東京都で行われること、その公式マスコットが「わざねこ」であることを知りました。
ちょうど生徒たちには、自分の製作物が実際にディスプレイされることの緊張感を味わってほしいと考えていたこともあり、「わざねこの立体像を製作してみたい」と関連部署に願い出たことから今回の製作企画が始まりました。
自分たちのものづくりが東京都庁内に飾られると聞いて、生徒たちのモチベーションも一気に高まっていきました。製作したのは全部で4体です。普段の実習とは違い、実際に展示してもらえるという新鮮な課題となりました。
わざねこ製作の流れ
まず、わざねこの平面のデザインからミニチュアの立体像を製作し、完成イメージを共有することからスタート。素材は、軽く加工もしやすい発泡スチロールとしました。
発砲スチロールのブロックをニクロム線の電熱で溶かしてカット。カッターで成形した後、金ブラシやスポンジ研磨材で整えます。
わざねこの耳部分は、余った発泡スチロールを成形してから頭に接着。鼻は、発泡スチロールではなくパテを盛り上げて作りました。こうしたわざねこの頭部分の製作や、胴体の製作など、パーツごとにチームを編成することで、4体の統一感を確保しました。それでも、やはり手作業なので、並べてみると同じパーツでも大きさや形にわずかな違いが見受けられました。逆に、それが手作りの味わいにもなっています。
本校の板金溶接科に協力を仰ぎ、展示の際の安定性を出すため、鉄の棒を足と台座に差し込んで固定。安全性にも十分に配慮しました。
オリジナルデザインのわざねこの他に、独自のカラーリングを3種類製作。配色は、ディスプレイ時に添えられる旗の色を基に考案しました。
「Tokyo技能五輪・アビリンピック2021」の競技職種をイメージし、生徒がアイデアを出し合ってドライヤー・かんな・フライパン・パソコンなどの小道具も工夫しながら製作しました。
立体像は大会終了後も技能振興のシンボルとして活躍!
自分たちの手がけた製作物が、都庁だけでなく「Tokyo技能五輪・アビリンピック2021」開催中の東京ビッグサイトにも展示され、生徒も私も大感激でした。わざねこ製作に生徒たちは興味津々で、いつもの授業以上に熱を持って取り組んでいる姿が印象的でした。人に感動を与える実感が得られ、広告美術の仕事の面白みを体感することができたのだと思います。大会後には、大田区内外の企業や研究機関などが集結する拠点、羽田イノベーションシティ内「HANEDA×PiO(ハネダピオ)」に4体揃って設置。地域産業の振興にも活用していただけました。今回、生徒の作品をさまざまなイベントに活用いただき関係者に大変感謝しています。
広告美術科で学ぶ看板やディスプレイ製作の技術は、今回のようなイベントなどでの展示を通じて、企業や店舗の売上に貢献し、街ゆく人々を笑顔にすることにもつながります。
生徒たちは、若い人では18歳から、上は定年を迎えた方まで幅広く、「デザインや広告に漠然と興味を持っているものの未経験である」という方がほとんどです。そんな方々に仕事の面白さや意義を伝えていくのが私たちの役割です。職業訓練校での日々の授業を通じて、さまざまな発見や人との交流を重ね、人生の新たな道を見つける機会にしていただければと思います。
未経験でも確かな技術を身につけ、新しい道を見つけられるように。
看板業・ディスプレイ業は表現方法が幅広く、さまざまな技術分野に精通していくことが求められます。そのため、一年の訓練だけで完結するものではなく、就職後も技術習得に励んでいかなければなりません。
粘着シート加工やPCでのグラフィック技術、電気照明サインなども含めた看板製作など、その習得した技術を活用した独自のものづくりができることが魅力とも言えます。
わたしたち指導員は、ひとりひとりの生徒と真剣に向き合い、より良い進路選びをサポートしています。「やりたいことが分らないから探したい」そんな方にとっても、真剣に自分の新しい道を考えながら、一からものづくりを学べる時間になると思いますので、思い切って飛び込んできてくれたら嬉しいですね。
東京都立城南職業能力開発センター 大田校とは
1935年(昭和10年)に東京府機械工養成所として創設された、東京都が運営する職業訓練校です。広告美術科のような広告系だけでなく、ものづくりエンジニア科、デジタルクラフト科や板金溶接科といった機械加工系なども含め、ものづくり関連の科目を多く設置しているのが特徴です。2021年(令和3年)より穴守稲荷エリアに移転し、充実した設備や実習室を揃え、座学・実習ともに幅広く学べる環境を備えています。
学校名 | 東京都立城南職業能力開発センター 大田校 |
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学校所在地 | 東京都大田区羽田旭町10-11 |
連絡先 | TEL: 03-3744-1013 |
ホームページ | 東京都立城南職業能力開発センター 大田校のHPへ |