ロケットや人工衛星に搭載される宇宙関連機器の回路設計に携わるNECスペーステクノロジー株式会社の豊里悠太さんに、電気製図の仕事について伺いました。
憧れの宇宙分野へ
昔からものづくりが好きで、高等専門学校で電気を学び、複雑な回路を組んで制御する経験を通じて、回路設計の仕事に携わりたいと思うようになりました。当時、宇宙分野に興味はありましたが、自分が関われる世界ではないと思っていたので、卒業後は電気機器メーカーに就職、製造の組立現場を経験後、ロボットの設計部門で7年ほど電気設計に携わりました。その後、人工衛星の電気系の設計で人材を募集していると知り、宇宙に関われるチャンスだと思い、宇宙関連機器の研究開発から設計、製造、試験、納入まで一貫して手掛ける弊社に入社しました。
回路の構成を考え、基板設計につなぐ
現在、人工衛星に搭載するデータ処理装置の回路設計を担当しています。机上で仕様書をつくり、計算しながら基本的な回路構成を検討し、CAD(パソコン上で設計できるソフト)に落とし込んで設計します。回路図を起こしている間は、ほぼ一日中、CADに張り付いて作業をしています。でき上がった図面をもとに、基板担当が部品配置や配線を設計していきますが、その際、基板の配線パターンに関する留意点を担当者に伝えます。配線の仕方によっては、電気が流れる際に発生する磁界の影響で誤動作が起きることもあるので、線同士を離したり、逆に線を干渉させてノイズを打ち消すために隣り合わせに配置したり、そういう細かい指定をするのも回路担当の役割です。
数々の試験を重ねて
試作に入る前には、シミュレーションソフトを使って信号を通し、実際にどういう波形になるのかを解析します。問題があれば、基板担当に修正を依頼し、クリアすれば試作に移るので、この段階で、回路担当の手を離れます。部品は宇宙空間で放射線や太陽光に曝されます。そのため、放射線の影響に関する解析や、太陽光に曝されている高温時と地球の裏側に隠れている低温時の、極限温度下でのストレス解析などを行う必要があります。試作で問題がなければ製造をスタートし、完成後は、宇宙空間を模した真空環境で行う熱真空試験や、ロケットの打ち上げ時の振動を想定した振動試験なども行います。こうした試験の手順書についても、私たち回路担当が用意します。
何一つ、不要なものはない
回路設計から製造までの期間は、ケースごとに異なり、新しい機器を製造する場合でも、似たような開発事例があれば、一部だけ設計を変更して流用し、1年半程かけて製造まで進めます。一方、今後のベースとなる新技術を取り込んだ新しい装置を開発する場合は、採用方式の要素検証から始めるので、4〜5年と長期にわたることもあります。私が担当するのは人工衛星という大きなシステムの中の一機器ですが、システム全体が小さな機器の集合体です。たった一つ機能が動かなくなっても、衛星全体が役割を果たせなくなります。どんなに小さな部品でも、不要なものは何一つありません。だからこそ、しっかり信頼性を確保し、万全の体勢で臨んでいます。
ブレークスルーが生まれる瞬間
課題に直面した時は、周囲の同僚や上司に相談し、試行錯誤するうちに、ある瞬間、ブレークスルー的な発想が閃きます。その壁を越えた時、やりがいや面白さを感じます。もちろん経験も必要ですが、周囲から知識やヒントをもらい、刺激を受けることで、自分の中のアイデアを発酵させることができます。まだ、自分の担当機器が宇宙へ飛び立つところまでは至っていませんが、設計したものが宇宙空間で人々の暮らしに役立つ働きをすることにはワクワクするし、この仕事の何よりの魅力だと思います。 電気は目に見えないものですが、設計をもとに電気回路をはんだ付けし、電源をつなぐことで、実際に何かを動かしたり、光らせたりすることができます。この基本を理解すれば、電気で動くものはどんな複雑なことも実現可能です。自分の力で生み出せるものの範囲は限りなく広がっており、宇宙にもつながっています。ぜひ、電気製図の世界に飛び込んでみてください。
テスターとはんだごては、我が家の必需品
仕事の影響なのか、家にある電化製品が故障すると、テスター(電流や電圧を調べる計測器)を使って原因を特定しないと気が済みません。例えば、スマホの充電が突然できなくなった時は、ケーブルの被覆を剥いて、テスターで問題の箇所を特定し、つなぎ直して修理します。もともと電子工作は大好きなので、テスターとはんだごては、我が家の必需品です。
社名 | NECスペーステクノロジー株式会社 |
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本社所在地 | 東京都府中市日新町1-10 |
TEL | 042-354-4000 |
主な業務内容 | 人工衛星・ロケット搭載機器の製造・試験・サービスの提供 |
ホームページ | NECスペーステクノロジー株式会社のホームページへ |