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傘づくりは、知れば知るほど奥が深く、面白い仕事。 catch
#53

東京洋傘(伝統工芸)

傘づくりは、知れば知るほど奥が深く、面白い仕事。

株式会社市原
熊坂 一樹さん

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江戸時代末期、ペリーが日米和親条約締結のために浦賀に来航した際、船長のハリスが持参した洋傘が世間の注目を集めたことを機に、東京の職人たちが試行錯誤を繰り返し、日本独自の手法で作り上げてきた「東京洋傘」。繊細な手仕事とこだわりを持って傘づくりに取り組む株式会社市原で、東京洋傘職人を目指す熊坂一樹さんにお話を伺いました。

形に残るものを作るために

形に残るものを作るために

20代半ばまで広告代理店の営業職でした。社内のデザイナーとやり取りをしながら広告などの制作に携わっていましたが、自分でも形に残るものを作りたいと思うようになり、ものづくりの仕事を探し、財布などの革小物を手掛けるメーカーに転職しました。型紙の製作から量産、サンプルづくり、生産管理まで、ひと通りの業務に携わりましたが、他のものづくり分野にも挑戦してみたいと思い、「洋傘職人養成講座」にも通い始めました。傘づくりを学ぶうちに、職人の繊細で丁寧な仕事ぶりやこだわりを持ってものづくりに取り組む姿勢に惹かれ、ここで働きたいと思いました。

東京洋傘とは

東京洋傘とは

東京洋傘とは、東京都洋傘協同組合に所属する会員企業が国内で製造した日本製の洋傘のことを指します。組合に所属する企業であれば、作り手は日本人、外国人、製造する為の機械を問わず、東京洋傘となります。当社では、デザインから一貫して手がけており、デザインに応じて傘生地や糸、軽くて丈夫な傘骨、美しい持ち手などを厳選し、こだわりを持った傘づくりを手掛けています。張りがあって美しく、長く使える商品を提供することが、職人としての大切な役割と考えています。

伝統工芸品の東京洋傘 とは

「東京洋傘」のなかでも、伝統工芸士がたずさわり、伝統工芸品に認定された「東京洋傘」は、素材が絹と麻と綿に限られ、縫い方も、傘の頭から縫っていく「関東縫い」という方法が指定されています。その他にも、ダボ止め、ろくろ巻き、ツユ先、止め玉を施すなど、伝統的な技術・技法が駆使されており、その細かい審査項目に通ったものが伝統工芸品として認められます。こうした東京洋傘の伝統工芸品を手掛ける伝統工芸士は、時代を越えて受け継がれてきた技術・技法を習得した職人として東京都の資格認定を受けています。

伝統工芸品の東京洋傘 とは株式会社市原 代表取締役/
東京洋傘職人・伝統工芸士
奥田 正子さん

傘づくり、見習い中

傘づくり、見習い中

昼間の時間は、お客様との対面でのやり取り、ネットや百貨店などの受注対応、SNSを活用した傘に関する情報発信、さまざまなイベントに向けた準備などを担当しており、仕事が終わってから、傘づくりの勉強をしています。先輩たちが作った傘を見ながらアドバイスをもらい、商品として使用しない生地を使って練習し、技術を磨いています。いいものを作っても、それだけではなかなか手に取ってもらえないので、ネットやSNSで情報を発信し、お客様に直接、商品の良さを伝えていくことが、商品価値を高めることにつながると思います。職人としての自分の今後を考える上でも、傘づくり以外のことも勉強し、作るところからお客様との接点まで一貫して関わることで、本当にいいと思ってもらえるものを届けるようにしたいと思います。

出展に向け、試作品づくり

出展に向け、試作品づくり

現在、東京の伝統工芸を担う若手職人を対象とした「TOKYO職人展」に向けて試作品づくりに取り組んでいます。自分の手がけた商品を展示する初めての機会で、4種類の製作を予定しています。約1日かけて1本作るペースで、納得いくまで作品づくりに取り組んでいます。傘は生地を8枚縫い合わせて、骨につければ完成するものと思っていましたが、実際にやってみると、生地の織柄で伸び方が変わったり、同じ型で作っても、たわんでしまったり、逆にきつく張りすぎて開きづらくなったり、なかなかきれいに仕上がりません。いちばん難しいのは、縫い初めの針を落とす位置です。わずか数ミリの差で、たるんだり、開きづらくなってしまったり、シルエットがきれいにならなかったり、仕上がりが全く変わってきます。商品を高いクオリティで一定の水準に仕上げなければなりませんが、そういう難しさが傘づくりの楽しさでもあると思います。

伝統工芸士を目指して

伝統工芸士を目指して

安価なものからオーダーものまで、世の中には多種多様な傘がありますが、デザインのパターンや用途に応じた生地、骨、持ち手を選んで、自分で考えて工夫しながら、お客様に選んでもらえるものに仕上げていくところが傘づくりの面白さです。作り手としては、アイデアを形にすることができ、お客様に喜んでいただけて、すごくやりがいがあります。知れば知るほど奥が深く、面白い仕事なので、ぜひ多くの人にチャレンジしてほしいと思います。
当社には伝統工芸士が2名おり、傘づくりを学ぶには恵まれた環境です。その環境を活かして、伝統工芸品を手掛けられる職人になることが一番の目標です。そのためには、まず傘全般に関してもっと知識を身につけ、傘づくりの経験をたくさん積みながら、東京洋傘職人として確かな技術を磨いていきたいと思います。

他人の傘が気になる

この仕事を始めてから、街で見かける傘が気になるようになりました。デザインや仕上がりなど、以前よりも注意して見ています。職人が手作業で作ったものか、機械で量産されたものか、傘を開いたときの生地の張り、ツユ先に皺が寄っていないか、たわみなく張られているか、骨と骨の間のアーチ状に緩みがないかなど、細いところに目が行きます。自分自身は、折り畳み傘が一番好きで、デザインというより、折り畳まれていく際の傘の形状に惹かれます。

他人の傘が気になる

TOKYO職人展とは?

東京の伝統工芸品は、江戸から東京へと約400年に及ぶ歴史や文化の蓄積です。その将来を担う若手後継者による販売展示会が「TOKYO職人展」です。開催期間には、職人による実演や製作体験が実施されるほか、記念品がもらえるスタンプラリーも開催されます。東京の伝統工芸品の魅力を、ぜひご堪能ください。

第11回TOKYO職人展の詳細はこちら

TOKYO職人展とは?※2022年度の様子
社名 株式会社市原
本社所在地 東京都中央区日本橋茅場町2-17-9
TEL 03-3669-2061
主な業務内容 傘製造、各種洋傘自社製造、自社ブランド運営
ホームページ 株式会社市原のホームページへ

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