東京都では、年に一度、都内に勤務する技能者の中から極めて優れた技能を持ち、他の技能者の模範と認められる方々を「東京都優秀技能者(東京マイスター)」に認定し、東京都知事賞を贈呈しています。今回は、令和5年度に東京マイスターに認定された金属熱処理工の澁澤直哉さん(株式会社上島熱処理工業所)にお話を伺いました。
先人の知を教わりながら
当社は、日本で最初にJIS(日本工業規格)の「鉄鋼の焼入焼戻し加工」の認定を取得し、厚生労働大臣賞受賞の「現代の名工」を3名も擁するなど、高い技能を備えた熱処理加工のプロ集団として、自動車部品から医療機器、航空機部品に至るまで、厳密な精度が求められる一品ものなど、少量多品種を扱っています。私は大学卒業後、自動車部品メーカーに就職しましたが、30歳くらいで転職という形で入社し、約20年になります。わからないことは先輩たちに教わりながら、その経験知を吸収することで技能を磨き、今日に至ります。地道に努力を続けていれば、こうした賞もいただけるということで、今回の受賞は素直に嬉しく思います。
処理の温度や時間を記載する作業指示書。製品は箱に入れてナンバータグと共に管理。
熱処理で性能を高める
熱処理加工とは、金属製品に熱を加えたり冷やしたりすることで、耐久性や耐摩耗性、耐熱性などの性能を高める加工技術です。「焼入れ」は金属を硬くし、「焼戻し」は粘りを与え、「焼ならし」は金属を強くします。金属材料の特性を出すには、成分に準じた熱処理を加える必要がありますが、同じ材料でも形状はいろいろで、それによって処理の温度や時間が変わります。製品の硬度があっても、長時間、高温に晒すのは製品に影響を与えることになるため、必要最低限の温度と時間を保持し冷却するのが原則。熱処理加工を施すことで、材質自体は変わりませんが、例えば、削られる側の材料が、削るための工具になります。
適切な処理条件を見極める
現在は、お客様から預かった製品を確認し、温度・時間など、適切な処理条件を現場に伝えるため、作業指示書に落とし込む作業や納期調整などの管理業務を担当しています。一品ものを扱うだけに、お客様の要望にきちんと応えられるかどうか、一つ一つ製品を見て判断しなければならないところが、この仕事の難しいところです。限りなく完成品に近い状態で送られてくる製品の場合、熱を入れることで負荷がかかるため、扱いには注意が必要です。熱処理の時間と温度、冷却速度の加減は、経験知で掴んでいくもの。これまで培ってきたことを現場に伝えつつ、一品一品としっかり向き合いながら、条件を満たすことができる最適解を求めて作業を行っています。
マンツーマンで熱処理の作業を行う様子
知れば知るほど奥が深い
昔は、見て覚えることが当たり前でしたが、今は若手とマンツーマンで作業をする中で、必要な情報をできるだけ言葉で説明し、塩梅や加減などの感覚知については、実際に体感して覚えられるよう工夫しています。毎回、新しいことと向き合うので緊張感があり、勉強し続ける根気が必要になりますが、そこがものづくりの面白さや手応えにつながっていると思います。お客さまの評価が次の仕事につながっていくので、途切れなく仕事をいただいていることは励みになります。この仕事は、知れば知るほど、奥が深くなり、終わりがありません。その奥深さが、この仕事の魅力だと思います。
好きの、その先へ
まだまだわからないことだらけなので、熱処理のことだけではなく、扱う製品がどういう用途で、どのような使われ方をしているのかも含めて理解していきたいと思っています。用途を知ることで熱処理に活かせることや新たな発見につながることもあると思います。その意味でも、覚えることはたくさんあります。ものづくりは好きでなければ続かない世界。でも、純粋にものづくりに取り組むには、すごく楽しい環境です。今後は、もっと若い人たちが入ってきやすいような職場づくりにも取り組んでいきたいと思います。
社名 | 株式会社上島熱処理工業 |
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所在地 | 東京都大田区仲池上2丁目23−13 |
連絡先 | TEL:03-3753-778 |
主な業務内容 | 金属熱処理加工・金属表面改質処理・摩擦圧接加工 |
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