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生地の美しさと日々向き合い、伝統を次につなぐ。 catch
#75

江戸更紗

生地の美しさと日々向き合い、伝統を次につなぐ。

一般社団法人 染の里おちあい 二葉苑
井上 英子さん

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南蛮船の渡来と共に日本にもたらされた「更紗」が、江戸で伝統的な型染めと出会い、独特の渋みのある色合いへと進化した「江戸更紗」。この地で100年続く型染め屋として、江戸染色の多彩な技法を受け継ぎ、その魅力を今に伝える「一般社団法人 染の里おちあい 二葉苑」の井上英子さんにお話を伺いました。

江戸更紗とは

インドに起源を持つ「更紗」が、日本に入ってきたのは、14~16世紀頃の室町〜安土桃山時代。長崎に渡来した南蛮船がもたらした積荷の中にあった生地を真似たのが、その始まり。「長崎更紗」「鍋島更紗」など、それぞれの土地の伝統的な技法や文化を反映しながら発展。江戸時代中期から末期にかけて江戸へ伝わり、伝統的な染色技法の型染めを応用することで、細かい柄を多色刷りで仕上げる独自のスタイルに進化した。

江戸更紗とは

染めに導かれて

染めに導かれて

子供の頃から絵やイラストを描いたり、手を動かしてものを作ったりするのが好きで、母が日本画や編み物などを手掛けていた影響もあり、美術系の大学に進みました。2年次から専攻したテキスタイルでは、基本技術として「織り」と「染め」を学ぶのですが、同じ作業を忍耐強く続ける「織り」よりも、もっと自由にできる「染め」を選びました。卒業後、イラストをやりたいと思い、染めからは離れていたのですが、地元をバイクで走っている時に、張手(はりて※)がたくさんかかっている町工場のような染め屋さんを見つけました。その瞬間、またやりたいなと思い、飛び込みで働けませんかとお願いし、染めの世界に復帰しました。
※染める前の反物を引っ張る道具

型紙で染め重ね、紋様を描き出す

型紙で染め重ね、紋様を描き出す

図柄の彫られた型紙を使って刷毛で染めていく江戸更紗は、色数に応じて数十枚の型染めを丁寧に繰り返すことで、細密な模様を生地に描きます。作業は、①生地を板に張り付ける「地張り」に始まり、②型を使って柄の輪郭線を生地に染めつける「糸目摺り」、③染料を調合する「色づくり」、④型紙で柄の色部分を生地に摺り込む「目色(めいろ)」、⑤型の上から防染用の糊を均一に塗り、柄のつなぎ目がズレないよう糊を置いていく「糊伏せ」、⑥生地を引っ張り、糊を置いた上から地入れ液を塗り、染料の滲みを防ぐ「地入れ」、⑦刷毛で生地全体の背景色を染める「引染め」、⑧蒸し器に入れて約100度で蒸し上げ、染料を定着させる「蒸し」を経て、⑨生地を洗って糊や余分な染料を落とす「水洗い」を行い、⑩「湯のし加工」で蒸気を使って生地のシワを取り、布目や巾を均一にして反物に仕上げます。

全工程を担う

全工程を担う

今の工房に入った頃は、型紙を使って作業する「板場」と、引き染め、色挿し、蒸しを担当する「引場」の2つに分かれており、私は型染めの経験があったので、板場担当でした。当時は、呉服屋さんなどに着物を卸すのが中心でしたが、着物人口が減り、当初7人だった職人は、2人になりました。どちらが欠けても作業が止まるので、今は、2人とも全工程を担当します。受注製作が主で、染めの仕事自体は減っていますが、代わりに、一般の人に染め物を知っていただく体験会での指導が増えています。

生地や天候を、見極める

生地や天候を、見極める

客注の場合は、オリジナルの色合わせに時間がかかるので、色づくりに1日、刷りで1日、糊を使う場合は、乾かす間に別の作業が進められるので、多少前後しますが、一連の工程で1週間あれば仕上がります。この工房に来て、16年。作業はスピード重視ですが、季節で糊の具合や刷毛の滑りが変わるし、どの刷毛を選ぶかで色の付き具合も異なります。縞柄の生地は、柄を合わせなければならないので、地張りに時間がかかります。同じ作業でも、柄や生地の状態、天候を見極めないと、一定に仕上がらない。そこは経験知が求められます。

2つと同じものがない

2つと同じものがない

この仕事の魅力は、作るものが美しいこと。13mの真っさらな生地に、段階を経て色がつき、最終的に洗いをかけて完成した時の美しさ。そよそよとして柔らかく、見ているだけできれいで、その美しい生地に常に触れることができます。そして何より、2つと同じものがないことです。全く同じ手順で作業しても、同じものに仕上がらないのが手仕事です。糊の加減、季節、道具の選び方でも変わります。色づくりも、データ通りに調合しても、生地が変わると同じ色味にはなりません。常に、頭をフル回転させながら、目の前の生地と向き合い、わずかな変化も見逃さない。飽きることはありません。着物、和の文化を次につなぐ意味でも、そこに関われるのは楽しい。難しくて奥が深い仕事です。だからこそ、やりがいがあるし、そこがいちばんの魅力です。

丸刷毛のモフモフの正体とは?

江戸更紗で欠かせない道具の一つが、「摺り」の工程で使う「丸刷毛」です。鹿の毛、特にお尻周りの長めの毛を使っており、新品の毛足はフワフワ・モフモフ。古くなると、毛先が削れて毛量も減ります。柔らかい時は大きいものに使い、少し硬くなったものは、細かいところの作業に適しています。道具の加減を掴むのも経験。多少使いにくいと感じても技術でカバーし、自分のものにしていきます。

丸刷毛のモフモフの正体とは?
社名 一般社団法人 染の里おちあい 二葉苑
本社所在地 東京都新宿区上落合2-3-6
TEL 03-3368-8133
主な業務内容 着物、帯の染め替え、染色教室、染色体験
ホームページ 一般社団法人 染の里おちあい 二葉苑のHPへ

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