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工芸品としての美しさと、奏者の求める音の両立を目指す catch
#117

東京三味線

工芸品としての美しさと、奏者の求める音の両立を目指す

三絃司きくおか
西村 拓巳さん

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古くは中国の三絃を祖に、琉球国を経て、室町時代末期に伝わったとされる三味線。日本の伝統的な和楽器として400年以上の歴史を持ち、江戸においては、寛永の頃に邦楽の発達とともに三味線づくりが盛んになったとされています。三絃司きくおかの西村拓巳さんにお話を伺いました。

強い思いに心打たれて

強い思いに心打たれて

高校を卒業する頃からカメラにハマり、写真や動画を撮るようになりました。大学でポルトガル語を専攻していたので、最初は海外旅行などで撮っていましたが、ものづくりが好きだったことから、職人の作業工程を動画に撮りたいと考えました。工房に連絡して撮影をお願いする中で出会ったのが「三絃司きくおか」の河野公昭さんでした。三味線づくりの話や今後の展望を伺う中で、三味線を海外に発信していきたいという強い思いを知りました。職人というと伝統にこだわるイメージがあったのですが、東京マイスターでもある河野さんが新しいことに挑戦しようとする姿に打たれ、海外に広めるなら、自分の映像発信のノウハウや大学で学んだ語学力が活かせるのではないかと考え、空き時間に工房に通うようになりました。ここで過ごすのが楽しくて、このままこの道に進もうと決心し、卒業後、工房に入りました。

求められる音に応じた皮張り

求められる音に応じた皮張り

今は、三味線を一から製作する機会があまりなく、仕事は皮の張り直し、あるいは木製の竿部分の傷を直す修理作業がメインです。作業で、いちばん難しいのは皮張り。皮は自然のものなので一枚一枚異なり、傷もあります。それを見極め、きれいな音を出すために、皮の張り具合を調整します。たわみなく張る方がよい音が出ますが、引っ張り過ぎると破れてしまうので、皮の伸びや張り加減、わずかな音の違いなどを感覚で判断します。経験知がないと、張りの限界を見極めることはなかなかできません。奏者によって求める音があり、演奏する音楽のジャンルによっても違ってくるので、求められた音に合わせた張りに仕上げるのは、かなりの経験が必要です。

演奏環境に応じた音の出し方

演奏環境に応じた音の出し方

例えば、歌舞伎の舞台で演奏する三味線の音と、路上や野良で演奏する津軽三味線の音では、音質が異なります。舞台の演奏は音響環境が整備されているので、しっかり響いて繊細な音まで届けることができますが、道端での演奏は、周囲の環境音にかき消されないよう大きい音で遠くまで響かせなければなりません。音楽のジャンルや演奏環境に応じた音の要望、違いがあり、それに応じて皮の厚さを選び、皮張りの強さを変える。難しいのは、その見極めです。繊細な音であればあるほど、良好な状態の皮を限界まで引っ張らないと、きめ細かに響かせることはできません。わずかな張り具合の違いで音は変わるので、どう張ると、どんな音が鳴るのか、その感覚を掴んでいるのがベテランの職人。すごい技能だと思います。

より広い世代にアピール

より広い世代にアピール

今、自社開発製品として簡易版のミニ三味線「小じゃみチントン」の製作も手がけています。伝統的な三味線は限られた人しか扱えませんが、「小じゃみチントン」は三味線の2/3のサイズで、演奏方法は三味線とほとんど変わりません。軽くて、皮張りの代わりにユポ紙という水にも強い耐久性の高い紙を使用しているため、絵柄、デザインも多彩です。幅広くいろいろな世代の人に三味線の面白さを知ってもらうきっかけとして、体験会や展示会、小学校での体験授業などで弾いてもらう活動も行っています。

若い人にこそ、チャンス

若い人にこそ、チャンス

三味線づくりでは、工芸品としての美しさと同時に、聴く人を魅了する楽器としての音の力を両立させる技能が求められます。そこが三味線づくりの難しさで、同時に面白さでもあると思います。三味線そのものよりも、河野さんという人物に惹かれたのがきっかけで、この世界に入りましたが、そもそも手を動かしてものをつくることが好きなので、ものづくりと向き合う日々はとても楽しいです。三味線は、音楽を演奏するための楽器であり、日本の伝統的な音楽を支えてきたもの。自分の手がけた三味線を奏者が弾くことで、多くの人に楽しんでもらえるのも、この仕事の魅力の一つです。そういうものづくりから生まれる輪の広がりに関われることは、やりがいでもあります。伝統工芸の職人というと、古臭いイメージがあるかもしれませんが、後継者不足で人が減っていく今だからこそ、若い人にとってはチャンスがあり、若い発想で変えられる部分は多いと思います。その意味では、自分の力を活かして楽しめる職業。ぜひ、ものづくりの世界に興味を持ってほしいと思います。

三味線という世界

三味線の世界では、家元が開いている教室があり、そこに習いにくるお弟子さんたちは趣味で弾かれる方が多く、普段は仕事をしながら、定期的に集まって練習しています。その成果を披露する場として発表会があり、時々、発表会のお手伝いに伺うことがありますが、子供の習い事のような雰囲気で、大人のコミュニティとして、皆さん、とても楽しそうです。

三味線という世界
店舗名 三絃司きくおか
所在地 工房:東京都葛飾区東四つ木1-7-2
工場:東京都葛飾区東四つ木1-22-1 東四つ木工場ビル302
連絡先 03-3696-5501
ホームページ 三絃司きくおかのHPへ

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