ものづくりの匠の技と最先端技術が一堂に会した一大イベント「ものづくり・匠の技の祭典2023」が、8月4日(金)〜6日(日)の3日間、東京国際フォーラムで開催されたよ。衣・食・住・工の各分野の優れた技に触れる機会として、多彩なパフォーマンス・作品展示・体験プログラムが行われたんだ!大勢の人が訪れ、今年も大盛況だった祭典の様子を、わざねこがリポートするね。
匠の技、結集!
オープニングセレモニーを飾る特別作品として披露された「匠の地球儀」は、ものづくりの第一線で活躍する匠たちの技を結集し、持続可能な世界の実現を願って製作された大作だよ。この地球儀のベースとなる球体を手掛けたのは、板金の匠。なまして(※高温で熱してからゆっくり冷まし、柔らかくして)叩いた銅板を組み合わせて製作したんだ。地球の絵柄は、内装の匠が24分割したフィルムを一枚一枚、緻密に張り合わせたもの。その上に、左官の匠が漆喰で陸地部分を再現し、緑地部分は、造園の匠が天然木パウダーを使って丁寧に仕上げたんだ。そして、地球儀を支える台座は、設計から仕上げまで建築大工の匠が担当。それぞれの匠が卓越した技と創意工夫で作り上げた、まさに「匠の地球儀」!それぞれの匠に苦労した点や見どころを訊いたので紹介するね。
銅板の伸び率を考えながら叩き出していく(阿部道雄さん)
ヒントは、サッカーボール
球体を製作したのは、板金の匠・阿部道雄さんと岩井敢士さん。直径1,200mmの球体を、その大きさで叩き出すのは難しいため、サッカーボールをヒントに、正六角形20枚と正五角形12枚の銅板を組み合わせる方法を採用したんだ。銅板の伸び率を考えながら叩き出し、32面をすべて同じアール(曲面)で仕上げなければ、組み上げた時に球体にならない。つまり、数ミリのずれも許されず、全体のサイズを1,200mmに収めなければならない大変な作業なんだ。そこがいちばん苦労したんだって。
正六角形と正五角形の銅板を木型に被せる様子(阿部道雄さん:左/岩井敢士さん:右)
地球儀の内部は、正五角形、正六角形に切った15mmの板で木型を組み、そこに銅板をかぶせ、つなぎ目をはんだ付けしているんだ。板と銅板の間の空洞部分を埋めるため、発泡ウレタンを注入。ところが、想定以上に発泡ウレタンが膨れ、圧がかかったことで、はんだを押し上げて飛び出してしまうアクシデントが発生。バーナーで炙ってはんだを外し、再度銅板を付け直すなど、最後まで大変だったそうだよ。銅板を組み合わせて、いかに丸く見せられるか。正五角形と正六角形を一つ一つ丁寧に叩き出し、つなぎ合わせていった匠の技、本当にすごいね!
24分割されたフィルム(上の写真) 高橋敏昭さん(下の写真)
絵柄をぴったり合わせる、緻密な技
銅板製の球体の上に、地球の絵柄を張ったのは、内装の匠・飯島勇さんと高橋敏昭さん。24分割されたフィルムを丁寧に張り合わせているんだ。最大のポイントは、柄の合わせ。内装の仕事は通常、壁などの平らな面にクロスを張る。
フィルムを貼っている飯島勇さん
でも今回は、球体。分割された絵柄を球体の曲面に沿ってぴったり合わせながら張っていくのは、いつもと勝手が違う。でも、そこは匠。球体のサイズにフィルムの寸法をぴったり合わせるため、ドライヤーで炙りながら引っ張る一方、部分的にスポンジで冷やしながら縮めることで細部を調整し、きれいに張り合わせていったんだ。緻密に絵柄を合わせたつなぎ目は、匠の技のいちばんの見どころだね。
木村一幸さん(上)が鏝(こて)で大陸や山脈、砂漠を盛りつけ、八幡俊昭さん(下)がぼかしを入れている様子
漆喰で、陸地を再現
陸地の造作を担当したのは、左官の匠・八幡俊昭さんと木村一幸さん。材料はすべて漆喰で、地球の絵柄のフィルムに下地調整材を塗り、その上に鏝(こて)で大陸や山脈、砂漠を盛りつけたんだよ。下地を塗らないと、漆喰だけでは剥がれてしまうので、そこは、匠の裏技。日本列島は、みんながよく知っているからこそ、入念に再現し、富士山も、左官で仕上げているよ。色の調整は、地図を参考に5〜6色を掛け合わせながら、濃いところ・薄いところの色合いを再現。さらに刷毛でグラデーションを入れてぼかすことで、繊細に表現しているんだ。見どころは、砂漠と山の高低差をグラデーションで再現したところ。山肌の繊細な表現は見事だね!
富士山を仕上げる様子(上の写真)作業する江上信一さん(下の写真)
漆喰で、陸地を再現
最後の仕上げとして緑地を再現したのが、造園の匠・江上信一さん。当初、苔を使う方法を打診されたけれど、全長15cm程の日本の国土を再現するのに、苔はひとつまみのサイズが大きいので、半島や島嶼部を含め、見慣れた日本の形にするのは困難。そこで、匠はジオラマの材料を思いつき、天然木パウダーを使ったんだ。極細の筆でボンドを塗り、色の薄いところから少しずつパウダーを載せ、緑の深いところは重ねることで色を濃くし、山の高さと森林の雰囲気を表現しているんだ。造園業は、最後の仕上げが仕事。他の作業が全て終わってから、木を植え、砂利を敷き、飛石を並べて仕上げ、翌日にはお客様に引き渡せる状態にする。つまり、化粧をして、最後に紅を差すのが造園の仕事。今回の地球儀製作の集大成が、日本列島。最後に仕上げたんだって。
片岡茂樹さんの作業風景
地球を支える仕事
地球儀を支える台座を製作したのは、建築大工の匠・片岡茂樹さん。当初の図面では、箱状だったのを、木組みをしっかり見せたいと考え、一から図面を起こしたんだ。地球儀の重量約70kgを支える耐久性が求められるので、地球儀とのバランスを考え、下部だけを支え、地球儀全体が映えるような形にし、尚且つ、木組みであること、手仕事だとわかるようにしたんだって。地球儀が乗る部分は、1,200mmのアール(曲面)の板を二つに切って重ね合わせて十字形をつくり、球体が360度動くようにえぐり取っているんだ。柱は、100×100mmの角材を9本束ねてボルトで締め、化粧として杉板を4枚貼り、四方に檜の足を組んでいるんだ。台座は縁の下の力持ちだけど、ちゃんと建築大工の見せ場をつくっているところは、さすがだね。
8人の匠が持てる技能と創意工夫で仕上げた、「匠の地球儀」。匠たちの至高の技の共演は、祭典ならではのもの。来年の祭典は、どのような作品がオープニングを飾るのか、今から楽しみだね。