江戸時代から続く伝統工芸品として知られ、色ガラスと複雑なカットの文様が織りなす華やかな輝きが特徴的なガラスの芸術・江戸切子。職人の経験と技が生み出す江戸切子の繊細な美しさに魅了され、この道を志した株式会社清水硝子の矢野瑞季さんにお話を伺いました。
江戸切子に、ひと目ぼれ
もともと日本の伝統的なものに興味があり、地元・愛媛の伝統工芸品でもある砥部焼(とべやき)の職人になりたいと思い、窯元近くの高校のデザイン科に通っていました。伝統工芸のことを学ぶ中で、偶然、江戸切子のことを知り、素朴な光を放つ細密な文様を人の手で彫る繊細な技、日常で使う特別なグラスというところに惹かれ、“これがやりたい!”と思い、卒業後、思い切って上京しました。ガラス工芸専門の学校に通いながら、原料や性質、吹きガラスなど、ガラス全般について学び、縁のあった今の会社に入社しました。
繊細で美しい文様を刻む、作業工程
江戸切子は、江戸時代末期から始まったガラス工芸で、菊繋ぎや籠目(かごめ)などの細密な文様を彫り込むのが特徴です。無色透明な「透きガラス」と色付きのガラスを重ねた「色被せ(いろきせ)ガラス」が使われており、ガラス表面に独特なカットを施していきます。工程としてはまず、発注した色被せガラスを検品して気泡や汚れをチェックし、それらを取るようにカットするための目印線を縦横に引く「割り出し」の作業を行います。続いて、割り出し線を基準に親骨という境目の線や大まかな文様を削っていく「粗摺り(あらずり)」で全体のデザインを決めます。そこからガラスを削るダイヤモンドホイールという機械で細かい文様をカットする「三番掛け」、さらに削りの最終工程として、人工砥石や天然石製の円盤を使ってカット面を滑らかに仕上げる「石掛け」を行います。最後は、水と磨き粉で透明なガラスのカット面の光沢を出す磨き作業のあとの「バフ掛け」できれいに仕上げ磨きを行います。
迷いなく、きれいな線を刻む
カット作業は、器の口元から覗き込み、外側の割り出し線を見ながら、表面を削っていきます。ボール状の器やぐい呑みの場合は、口が開いているため、目印が見やすいのですが、ひと口ビールグラスや筒状で細長い花瓶などは口が狭いため、カットする位置が見極めづらくなります。特に色被せガラスは、瑠璃・赤や黒といった色の濃いガラスだと、照明を通しても、外側の割り出し線が見づらいため、手の感覚知と勘が頼り。仕上がりは、職人の経験や技によるところが大きくなります。ガラスのことはひと通り学校で学んだので、入社当初から作業を任せてもらえましたが、初めてカットを入れた時は、すごく怖かったです。切子はマイナスの作業。一度削ってしまったら、ごまかしが効きません。最初の頃は、カットする線がヨレたり、段になったりして、きれいに仕上がりませんでした。失敗したらどうしようという思いが先に立ち、線に怯えがあったと思います。今は迷いなく、きれいな線が刻めるようになりました。
自らのデザインが店頭に並ぶ
3年目を迎え、親骨や細かい文様を入れる作業をメインに担当するようになり、お客様の手に渡る商品を扱うことが多くなりました。作業では、スピードはもちろん、商品としてきれいに仕上げる緻密さも求められます。細部までしっかり気を配り、丁寧で的確な作業を心がけています。最近、自分の手がけたデザインが初めて会社の商品として採用され、ある有名店に並ぶ機会がありました。とても新鮮な経験で、今後の自分の仕事や作品づくりに生きる貴重な経験になったと思います。
努力と経験は、裏切らない
今、毎年春に開催される「江戸切子新作展」に向けて、花瓶や大皿などの作品づくりに取り掛かっています。これまでも出展経験はありますが、最終的な仕上がりがなかなか自分のイメージ通りになりませんでした。道具の選び方、削り方、線を合わせる際の正確さ、作品をデザインする際の表現の幅も含めて、先輩方と比べてまだまだ差があります。経験の積み重ねが違うので、そこをどう学び、埋めていくか。成長という点では、もちろん初期に手掛けたものから比べれば、はるかに技術は上がっているのを感じます。これまでの反省点や課題を踏まえ、次回作に向けて、地道に一歩一歩進んでいきたいと思います。一朝一夕でできるようになる仕事ではありませんが、日々努力して技術を磨き、経験を積む中で、自らの成長を実感できた時は、この上ないやりがいを感じます。伝統工芸に携われる魅力的な仕事。興味のある人はぜひ、志してほしいと思います。
ガラスにも、種類がある!?
ひと口にガラスといっても、いろいろな種類があります。江戸切子で主に使われているのは2種類。珪砂(けいしゃ:石英という鉱物からできた砂)にソーダ灰と石灰などを混ぜてつくられた比較的軽い「ソーダガラス」。もう一つは、酸化鉛等が混ざったガラスで重みのある「クリスタルガラス」。光の屈折率が高く、磨くとソーダガラスよりも輝き、透き通った透明感があるのが特徴で、大きな作品や高価な商品に使われています。
社名 | 株式会社清水硝子 |
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本社所在地 | 東京都葛飾区堀切4-64-7 |
TEL | 03-3690-1205 |
主な業務内容 | 伝統工芸品江戸切子・カットグラスの研磨加工及び販売 |
ホームページ | 株式会社清水硝子のホームページへ |