着物の変遷
着付けは、平安時代の十二単や束帯などの宮廷装束を美しく着装する技術を説いた「衣紋道(えもんどう)」が始まりとされる。日本の伝統文化である着物は、それぞれの時代の生活様式に応じて変遷していく。平安期は、貴族社会を象徴する優雅な装いとして重ね着の文化であったが、そのいちばん下に着ていた“小袖”が、武士の台頭する鎌倉時代になると、動きやすさが求められたことから、日常的に着用されるようになる。江戸時代には、その小袖が主流となり、素材や模様、装飾が加えられ、いわばファッション化する。
「総模様など、着物が華美になり、江戸と京都のお金持ちが張り合う衣装比べが過熱化したため、幕府の締め付けが厳しくなり、奢侈禁止令が出るなど、贅沢ができなくなりました。」
着物の色は紺、黒、紫、鼠色、茶が代表色となり、模様は裾だけで、縞・絣・幾何科学模様と地味になる一方、羽織姿を特徴としていた深川の辰巳芸者が、羽織の着用まで禁じられたことから、帯を華美にしたことで、帯結びの造作が盛んになっていく。
「亀戸天神の太鼓橋の落成を祝う席で芸者衆が披露した帯結びが、“お太鼓”の始まりです。人気女形・初代上村吉弥が考案した女帯の結び方が“吉弥“で、切手の見返り美人の図でも知られています。明治初期には着物が今のような形となり、約束事として確立されたのが、“着付”です。帯結びの原型も、太鼓型・文庫型・立矢型・片流し型といった結びが基本となり、多種多様な帯結びができていきます。」
着る人の美しさを、引き出す
着付では、その人の持つ雰囲気、体型などに合わせて着物の柄を選び、帯の結び方で、その人を表わす。
「向き合った瞬間に身体的な特徴を把握し、それに合う補正を加えることで、美しく見えて、着崩れすることなく、楽に着られるようになります。帯は髪型や身長、着物の柄に合う個性的な結びをあしらい、全体のバランスを取ってトータルな美しさを表現します。」
襟元の半襟も、着物の色柄に応じて変えることでお洒落を楽しむものであり、帯は着物の用途に応じて種類が変わり、結びで個性を表す。
「帯結びはヒダや畳み方でアレンジし、ゴムと紐1 本で手結びによって作り上げるのが伝統です。自分なりのアレンジで1,000 種くらいの結びができますが、そういう創造性も、着付けならではの面白さだと思います。」
変わる瞬間に、立ち会う
着物を着ると、人は別人のように変わるという。うわべだけではない、心根も変えてしまう力が、着物には確かにある。
「不機嫌そうな暗い顔をして来た方が、着物を着た瞬間、明るく華やいだ表情に一変します。人が美しさに対峙した時に起こる変化こそ、この仕事の面白さであり、やりがいです。」
着付では、着付ける人の人間性も表れる。
「相手を立てて、尊敬する気持ちが大切で、どんな人に対しても心をフラットにし、先入観を持たずに向き合い、その人の良いところを見つけて伸ばす。それが着付けに求められることだと思います。」
着付けとは、着物を介して、それぞれが持つ個性や美しさに寄り添うことなのかもしれない。
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