日本の風土が生んだ、伝統的な壁塗り
土や砂、藻類の化石が堆積した珪藻土など、身近な自然素材を使った日本古来の伝統的な壁塗りを生業とする「左官」。高温多湿の日本の風土に適した家づくりを担う職人として、その歴史は古く、飛鳥時代には、石灰を使って壁を白く塗り上げる技術を持つ土工や白土師という職業があったとされる。
奈良時代の律令制下では、宮廷への出入りを許されるには「官位」が必要だったことから、建物の骨組みをつくる大工に「右官」、塗り壁を仕上げる職人に「左官」という官職をつけたといわれ、それが語源との説もある。
平らこそ、使命
商号「近江屋」を冠し、宮左官としての実績を持つ家系に生まれた。明治初年の創業から数えて、7代目。幼い頃から父や兄が左官仕事をする現場で、壁を塗り重ね、平らにする姿を間近に見てきた。それゆえ、初代からの伝統「平らな壁が任務である」の基本理念が身に染み込んでおり、その実現のために何をするかを常に考える。「きちんとした道具選び、材料の吟味、いずれも時間がかかります。商売として考えれば、もっと手早く片付けた方がいいのかもしれない。でも、私たちの考え方を生かせる現場があるなら、とことん貫きます。」左官の仕事は、水の加減で決まる。「左官は水商売。水との闘いです。昔は下地が土で、漆喰に含まれる水分を受け止めるだけの厚みがあったので、塗ったところから水が吸い取られ、均等に塗り上げることができました。でも、今は漆喰も下地も薄く、その微妙な厚みの違いで水の引き具合が変わる。安定させるのに苦労します。」
こだわるのは「水平」と「垂直」、そして「平ら」。壁の角は真っ直ぐ垂直に下ろし、梁は水平に。だが、表面を平らに塗り上げるのは難しい。「鏝がしっかり当たると圧で水が抜けますが、当たらない部分は水分が抜けず、変色してムラの原因になる。鏝を均等に当てる技術が求められます。」
漆喰文化を伝えていく
材料や道具は時代で変化する。だが、文化財や神社仏閣の仕事では、昔の技法を再現しなければならない。「鏝の精度が必要になるので、当時の道具を使います。鏝を使って人の手で仕上げることに変わりはありませんが、古いことも今のことにも熟知している必要があります。」
夏涼しく、冬は暖かく、家全体が呼吸しているかのような快適な空間を生み出す、漆喰。その価値が今、見直されている。「漆喰の効果について、大学の研究室と共同研究しています。しっかりエビデンスを取って効果が証明できれば、もっと普及するはずです。日本の伝統として、漆喰の文化を後世に残していきたい。」 塗り壁の力―その価値を、再び時代が求めている。
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