東京の匠の技

日本料理

全国日本調理技能士会連合会

加瀬秀雄さん

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調理場に立つと、柔和な笑顔が隠れ、料理人の引き締まった表情へと変わる。使い込まれて渋みを増した包丁は、鍛えた年月を刻んでいる。丁寧に磨かれた刃先を静かに引くと、一片の瑞々しい刺身が切り出されていく。技に年輪があるとすれば、それは手と目に表れるだろう。的確で洗練された、手技。音を見、頃合いを図り、周囲の動きと気配を察知する、目配り。積み重ねた経験と研鑽は、その動きに宿る。円熟の技が、そこに在る

見て覚え、繰り返す

15の歳から憧れ、この世界で40年。「見て盗め」の時代。親方の鞄持ちからスタートするも、想像とは違った。
「鍋洗い、親方の世話、下準備ばかりで、包丁も握らせてもらえない。ようやく任された賄いも、味噌汁すら作れない。先輩に味見してもらいながら、少しずつ覚えました。」
自らの持ち場を早めに済ませ、先輩の手伝いを買って出る。洗っておけと指示された鍋を舐めては味を覚え、少しずつ引き出しを増やしていく。3年経った頃、盛り付け担当の“八寸場”を任される。だし巻きや桂剥きは、休日に何度も練習した。
「やってみろ、と言われた時に、“どうやるんですか?”では、相手にされない。下手でも披露し、努力する姿が伝われば、声をかけてもらえる。料理だけでなく、人間関係も覚えました。」
付いた師匠は一人。そこが基本。
「休みに師匠の友人の店に手伝いに行かされたり、数ヵ月限定で修業に出たり、外を知ると、店ごとに勝手が違い、段取りや仕込みも変わる。師匠の味付け、盛付け、切り方が基本と思っていたら、他は違う。そこで葛藤します。」

研鑽の集積・生き方が、滲み出る

四季の素材を大切にする日本料理は、季節で味をアレンジする。
「“割り仕事”といって、天つゆであれば、“出汁四杯に、みりん、醤油が一杯”と、ある程度決まっています。でも、夏場は暑さで舌が疲れているので少し濃くしたり、コースの一品で出す場合は、薄くして素材の味を引き立てたり、お客様に合わせて“変える”ということをします。献立はストーリー。盛り上げるところを決めたら、“五味五感”を織り交ぜ、全体の味のバランスを考え、組み立てます。」
料理の世界は奥が深く、すべてをマスターしたわけではない。プロと出会い、その技に感動し、頼み込んで学んだ氷彫刻も10年超。コンクールで優勝するまでになっても終わりはない。
「同じ10年でも、そこで何を経験したか、その濃度・密度で変わります。和食の人間は、オールマイティにいろいろ手掛けますが、フグ、うなぎ、すき焼きなど、それぞれ分野に特化して素晴らしい人たちがいる。叶わないと思いながらも、挑戦しなければ成長しない。」
料理は、腕がすべて。だが、人間性も求められる。そして、人とのつながり、縁が左右する世界でもある。
「腕があっても、独りよがりでは調理場をまわせません。長くやっていると、いろいろ出会いがあり、巡り合わせもある。でも、常に努力していないと、その縁を引き寄せることができない。料理は、その人の生き方が滲み出てくるもの。他人を真似て、無理した料理はうまくいきません。自分の器を知り、やれること・やりたいことを素直に通す。でも、料理とは自分の満足ではなく、食べていただき、喜んでもらって初めて完成する。まだまだだと思います。」
楽しさと苦しさ。研鑽とは、この間合いを行き来することであり、どこまでも続く往来を歩むことで、人は成長する。

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