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自分が納得できるか。そこを基準に、技能を突き詰めていく。 catch
#73

現代の名工(建築大工)

自分が納得できるか。そこを基準に、技能を突き詰めていく。

有限会社 池田技建
長谷川 裕樹さん

厚生労働省では、年に一度、卓越した技能を持ち、その道の第一人者とされる技能者の方々を「卓越した技能者(現代の名工)」として表彰しています。伝統木造住宅、社寺建築等に携わり、技能グランプリで金賞を受賞するなど、優れた知識・技能を有する建築大工として、2023(令和5)年度に現代の名工を受賞された、有限会社池田技建の長谷川裕樹さんにお話を伺いました。

功績の概要

伝統木造住宅から社寺建築まで幅広く手がけ、技能グランプリでは金賞を獲得、卓越した技能を有し、特に「扇たる木」を得意として、正確無比な割り付け、軒反りの美しさに高い評価を得ている。また、「規矩術(きくじゅつ)※」に深く精通し、その研鑽を重ねた技能を数々の木造建築で発揮、技能講習会では、後進の指導育成にも尽力している。
※規矩術:大工道具の曲尺(さしがね:L字型の定規)を使って、角度や曲線を正確に割り出す伝統的な木造技術。勾配のある複雑な屋根の部材の組み立て角度を割り出す技術として発展。

功績の概要扇たる木 功績の概要

大工職人に憧れて

大工職人に憧れて

これまでいろいろな人に助けてもらい、ここまで来ることができました。受賞はプレッシャーでもありますが、感謝の気持ちでいっぱいです。もともと新潟の出身で、18歳の時に大工職人に憧れて上京し、工務店に弟子入りしました。見習いとして修業し、3年程経った頃、社長が廃業することになったため、大工をしていた同級生が起業した会社に入社し、修行を続けたのが始まりです。同級生は中学卒業後すぐにこの世界に入り、一般住宅だけでなく、伝統木造住宅も手がけるなど経験豊富だったので、その影響で伝統的な建築にも興味を持つようになりました。

動作を分解して考える

動作を分解して考える

最初はなかなか仕事がうまくいきませんでした。道具が悪いのかと思い、上手な人の道具を借りてみましたが、結局、悪いのは自分の腕と気づき、そこから他の人の動作を見て、どこが違うのかを考えるようになりました。ノコギリを挽くにしても、どこを持って、目線をどこに置き、体の位置や向きをどうするか、動作を再現するため、一つ一つの動きを分解し、それぞれ細かく確認しながら、少しずつ改善を重ね、動作を突き詰めていきました。これを続けたことで、打つ、挽く、削るという大工仕事に必要な動作・道具の使い方が身につき、いろいろなことができるようになりました。

転機

転機

24歳の時、建築大工技能士2級を取得し、建築大工の組合に入ったことで、年長者の人たちから昔の仕事の話を聞いたり、写真を見せてもらったりするうちに、自分もいろいろやってみたいと思うようになりました。同じ頃、聖徳太子の時代から伝わる伝統的な技法である「規矩術」のことを知り、その奥深さに感銘を受け、現在の社長から技能を伝承してもらいました。伝統木造建築では、規矩術を使って曲尺だけで角度や曲線を正確に割り出して図面を引き、部材に墨付けをして切り出し、組み上げます。今の時代は機械で材木をプレカットするため、曲尺で寸法を割り出さなくても家が建てられることから、規矩術を知らない大工もいます。規矩術について基本的なことが書かれた書物はありますが、体系化されていないため、まだまだわからないことが多く、奥が深い世界です。

自分が納得できるか

自分が納得できるか

今、メインの仕事は住宅建築で、一般の戸建て住宅やマンションのリフォーム、店舗などを手がけています。伝統木造建築の仕事は、7、8割ほどで、社寺の修繕や建て直し、地蔵堂の建造といった伝統木造建築の場合は、昔ながらの工法なので、釘を使わずに組み上げます。彫刻などの造作も手がけますが、仕上げ彫りのような装飾は勉強するのが大変でした。今の時代はYouTubeなどの動画で、いろいろな人の仕事を拝見できるのが楽しくもあります。どんなことでも、自分で試してみて、うまくいかなければ考えて工夫する、そのプロセスが大切です。上手くできた時の感覚を基準に、自分自身が出来栄えに納得できるかどうか。数をこなすほど上達するので、その積み重ねで、1歩ずつ階段を登るような感覚で身につけていきます。

好きになるために、努力する

好きになるために、努力する

好きなことを仕事にし、覚悟を持ってやろうと決めたので、見えないところでも手を抜くことはしません。いくら手間と時間をかけても、誰に評価されるわけではありませんが、自分自身は、その仕事を見ています。だからこそ、自分に嘘をついたり、誤魔化したりすることはできない、そういう気持ちで日々仕事と向き合っています。大工仕事は、まずは好きになること。そこが出発点だと思います。昨日より今日、今日より明日、少しずつ上達していく、そこが楽しいし、やりがいを感じます。もちろん楽しいことばかりではありませんが、自分で面白さを見つけ、好きになるために努力をする。技能が向上し、造るものが良くなれば、お客さまにも喜ばれます。私自身、最初は何をしてもダメでしたが、楽しさを見つけることができたからこそ、今も続けています。一人でも多くの人に、手仕事の面白さを知ってほしいと思います。

社名 有限会社池田技建
本社所在地 東京都練馬区石神井台5-22-5
TEL 03-3928-7840
主な業務内容 建築工事一式

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