伝統的な匠の技と最先端のものづくりの技能・技術に触れる機会として3日間にわたって開催された「ものづくり・匠の技の祭典2023」。今回は、多くの人で賑わった展示ブースや実演の様子を、わざねこがリポートするね。
金属表面に高精度な美を刻む、工業彫刻
工業彫刻は、ライターやボールペンなどの商品に高精度な彫刻を施すことで、付加価値を与え、高級品化する加工技術なんだ。商品に直接、文字や柄を彫り込む「製品彫刻」、文字や柄を彫り込んだ金型の駒で製品を成形する「金型彫刻」、金属で作られた印鑑やハンコのように、反転した文字や柄を金属に彫り込み、それを製品に打刻することで同じ文字や絵柄を印字する「刻印」の3つのカテゴリに分かれているんだ。ブースでは、それぞれの加工が施された製品を展示していたよ。印象的だったのは、ライター。厚さ1ミリもない金属に、0.1〜0.3ミリ程の深さでわざと角を出して絵柄を刻むことで、深く彫り込んだように見せる技なんだって。表面の複雑な彫り込みが角度を変えると、虹色に輝いてすごくきれい。職人と機械の技術を融合することで、こうした美しい彫刻ができるんだ。職人の技は機械では再現できないので、手彫りに近づけるため、機械の加工の仕方を工夫しているんだって。打刻印キーホルダーづくりでは、子どもたちが文字やメッセージの刻印に挑戦していたよ。こうした楽しいものづくり体験が興味を持つきっかけになってくれるといいね。
美的価値を高める、木工塗装の高度な技能の世界
家具や建具などの木材の塗装を担う木工塗装は、樹木の種類に応じて、それぞれの特徴を生かした塗装を施すため、専門的な知識や経験が求められる高度な技能なんだ。そんな木工塗装の技能の世界を紹介したブースでは、だるまの絵付けや堆朱(ついしゅ:表面に漆を塗り重ねて層をつくり、文様を表す技法で、表面が朱のものを指す)の箸づくり、コースターのステンシル体験などが行われていたよ。絵付けでは、子どもたちが思い思いのだるまを描いていて、とても楽しそう。
展示作品の一番人気は、「光るけん玉」。木製のけん玉に木工塗装を施して金物のように仕上げ、中に電球を埋め込んで光らせているんだ。みんな、美しく輝くけん玉を不思議そうに眺めていたよ。木には見えない美しい仕上げで、美的な付加価値を高める、木工塗装。奥の深い技能だけに、こういう機会を通じて、若い人たちにもっと木工塗装の面白さや価値を知ってほしいな。
手ぬぐいを染め上げる、伝統的な染色技法を体験
東京本染ゆかた・手ぬぐいのブースでは、伝統的な染色技法「注染(ちゅうせん)」で手ぬぐいを染める体験が人気だったよ。「注染」とは、染料を生地の上から注いで色をつける技法。何枚か重ねた生地に、如雨露(じょうろ)のような道具「薬缶(やかん)」を使って染料をかけながら染み込ませることで、色の濃淡を表現するんだ。ぼかしができて、表裏の区別なく染め上がるのが、「注染」の特徴。今は手ぬぐいを使う機会が減っているけれど、使うほどに味が出る手ぬぐいは昔ながらの情緒があって、手仕事ならではの良さを感じるよ。こういう体験を通じて、もっと手ぬぐいが身近になってほしいな。
江戸の粋を感じる、東京手描友禅
「友禅染め」というと、金沢の「加賀友禅」、京都の「京友禅」が有名だけど、「東京手描友禅」は、新宿区の地場産業として昔からあったものなんだって。京友禅は、図案を描く人、下絵を描く人、写す人、糊を置く人、色挿しをする人と完全分業制だけど、東京手描友禅は、ほとんど全ての工程を一人の職人が手がけるんだ。京の雅な配色に対し、東京の友禅染めは、新橋の芸者さんなど、粋筋の人がお客さんだったことから、シックな色合いとシンプルな柄が好まれ、江戸の粋を感じるのが特徴なんだって。ブースでは、金線糸目が施された綿のハンカチに絵を描く友禅挿しの絵付け体験が行われていたよ。竹の先に針が出ていて、それを使って絵付けをするんだよ。紙に線を書くのと違って、生地の表面に糊を絞り出すことで染色の際の防染(※)にするんだ。鉛筆で描くように、生地の上に細かく描けるし、生地が吸収することで、きれいなぼかしの描写ができるところがいちばんの魅力。染色の中でも特別な技術なので、海外も含めて、いろいろな分野で活用されていくといいな。 ※糊を糸のように細く輪郭として引き、染めの際に色が混ざらないようにすること
1,000年の歴史を持つ最古の焼き物・備前焼
連日、大盛況だったのが、備前焼のブース。備前焼は、日本六古窯(備前、常滑、瀬戸、信楽、越前、丹波)の中で最も古く、1,000年もの歴史があるんだ。釉薬(うわぐすり)を使わず、火力の強い赤松の薪をベースに高温で時間をかけて焼き締め、強度が高いのが特徴。陶器は割れ物というイメージがあるけど、備前焼は丈夫で一生もの。1年365日、器を使う過程で、表面の凸凹がだんだん馴染んで変化し、きれいに育っていくんだ。長く使いながら、器を“育てる”のが備前焼の良さなんだって。電動のロクロを使った備前焼の製作体験では、子供たちやお父さん・お母さん、年配の方、海外からの観光客まで大勢の人が楽しんでいたよ。ロクロを回しながら、陶土を思い通りのかたちにしていくのは、なかなか難しそう。でも、ここでつくった作品は、後日、窯で焼き上げて送ってくれるんだ。つくる楽しさだけでなく、つくったものがずっと使えるのはいいよね。わざねこも、自分の器を作ってみたかったなあ。
ヨーロッパの王侯貴族も魅了した、京蒔絵
漆の特性を活かして文様を描き、その上に金箔や銀箔を蒔いて図柄を表現する日本独自の美術工芸として発展してきたのが「蒔絵」なんだ。ブースで展示されていたのは、京都府仏具協同組合に所属し、100年以上続く老舗の工房「下出蒔絵司所」。もともと漆は東アジアにしか存在せず、1549年にフランシスコ・ザビエルが来日した際、漆の器に純金の絵画が描かれていることに驚き、宗教用具を作って布教に役立てようとしたんだって。ヨーロッパ本国では王侯貴族たちを魅了し、マリーアントワネットのコレクションにもつながったんだ。その土台となったのが桃山時代の「高台寺蒔絵」。漆塗りの平面に金粉や銀粉を蒔いて平蒔絵を描く技法。この竹串でひっかいて模様を描く「高台寺蒔絵」の針描き作業の体験では、みんな思い思いの絵柄を描いていたよ。京蒔絵は、螺鈿(らでん※)と併用されることが多く、日本産やニュージーランド産の鮑(あわび)、シロチョウガイ、夜光貝などが使われるんだって。すごく上品で、深い味わいのある美しさだよ。こうした蒔絵がベースとなって、印刷技術や塗装技術が生まれ、漆器からプラスチック製品へとつながったんだ。1,000年以上の伝統がある蒔絵の技術って、すごいね。
※螺鈿/貝類の光沢部分を器などの表面にはめ込んで飾る技法
3日間、会場をいろいろ見てまわったけど、どこのブースも賑わっていたよ。体験する人も実演を見学している人も、みんな真剣な眼差し!ものづくりに対する関心の高さに、びっくりしたよ。こうした祭典をきっかけに、日本のものづくりがもっと盛り上がっていくといいな。