• HOME
  • 特集記事
  • 美味しさを追求する料理の面白さに、終わりはない。
美味しさを追求する料理の面白さに、終わりはない。 catch
#64

日本料理

美味しさを追求する料理の面白さに、終わりはない。

しち十二候
小林 有嗣(ありつぐ)さん

動画を見る

ユネスコの無形文化遺産にも登録されている日本料理(和食)は、日本の気候風土が育んだ食材本来の味わいを生かしながら、旬などの季節感を大切にし、器や盛り付けで四季の移ろいを美しく表現するなど、伝統的な食文化として培われてきたものです。和食の料理人として研鑽を重ねる「しち十二候」の小林有嗣さんにお話を伺いました。

食べることは、生きること

食べることは、生きること

料理に興味を持ったのは、小学生の頃、母の手伝いをしたのがきっかけです。母と祖母は料理が上手で、毎晩、手の込んだおかずを作っていたので、自然と手伝うようになりました。高校卒業を控え、進路を考えた時、大学に進んで会社員としてスーツ姿で働くよりも、割烹着で調理場に立つイメージの方がしっくりきたので、近くの調理専門学校に通いました。在学中、「食べることは、生きること」という言葉と出会って感動し、自分の料理で誰かの生きる手助けができるなら、こんなに素晴らしいことはないと思い、料理の世界を志しました。卒業後、小さな割烹料理屋で2年ほど下働きを経験し、ホテル直営の懐石料理、炭火焼魚の専門店などを渡り歩き、縁のあった今のお店で世話になり、ちょうど2年になります。

調理場の仕組み

調理場の仕組み

調理場は基本、料理長をトップに、そのサポートを行う「2番」と呼ばれる副料理長の二人が全体をまとめ、指示を出しながら店を回します。調理場内は、コース料理の最初に出す先付けや前菜を担当する「八寸場」、魚や肉の焼き物を扱う「焼き場」、天ぷらなどの揚げ物全般を担う「揚げ場」、ご飯を炊いたり、漬物やデザートを盛ったりする「飯場」、お店全体の料理の味付けや煮炊きものをする「煮方」、そして、刺身などのお造りや生ものを担当する「板」と呼ばれる持ち場に分かれており、入りたての若手は各持ち場をまわりながら、細かい仕事や雑用をする「追いまわし」の役割を担います。持ち場の割り振りは、経験や熟練度に応じて料理長が差配しますが、ある日、突然、「明日から煮方な」と言われることがあるので、日頃から、自分の担当以外でも、上の人たちの仕事を見ながら、段取りを覚え、すぐに対応できるよう準備しておかなければなりません。

料理には、終わりがない

料理には、終わりがない

今は、八寸場で先付けと前菜、焼き場で焼き物を担当しています。最近、板の仕事にも声をかけてもらい、少しずつ刺身の仕事も任されるようになっています。自分がいちばん若手なので、朝の調理場の準備、食材の納品・検品、備品の在庫管理、料理長が書いた献立をお店で共有するためのデータ化の作業なども担当しています。お客様に満足してもらうことが最優先なので、お客様第一を心がけ、温かいものは温かいうちに、冷たいものはなるべく冷たい状態で提供します。同じ食材でも、季節や産地によって異なり、一つとして同じものはありません。切り方、味付け、火の入れ方一つで、味は全く変わります。目の前の食材と向き合い、常に最適の方法を考えて調理し、美味しければよし、そうでなかった場合でも、次に向けた糧とする、その繰り返しです。毎日、緊張の連続ですが、すごく楽しいし、終わりがありません。食べたことのない味を再現するのは不可能なので、香りも含めて、いろいろなものを食べて覚え、自分で試してみます。経験した味の引き出しをたくさん持つことが大事で、「本当にこれで、お客様にご満足いただけるのか」と常に自問自答しながら、より美味しいものを追い求めていく。そこに料理の面白さがあり、どこまで行っても答えのない世界でもあります。

お客様の笑顔を糧に

お客様の笑顔を糧に

炭火焼きの店で働いていた時、カウンター越しにお客様と対面しながら、魚に串を打ち、焼き、盛り付けて出す仕事をしていました。ある日、お客様が魚を一口食べて、黙って上を見上げ、数秒経ってから、私の目を真っ直ぐ見ながら笑顔で「美味いね」とひと言つぶやいたことがあり、とても感動しました。人は本当に美味しいものを食べると、天を仰ぐものなのだと知りました。お客様の反応がリアルタイムで返ってくるところに、この仕事の醍醐味があり、そこに魅力を感じています。

面白さの先にある世界

面白さの先にある世界

先輩たちの仕事ぶりを見ていると、自分の勉強不足・実力不足を実感します。切り物一つにしても、同じ大きさ、厚さに切るのが基本ですが、技術を上げるためには繰り返しが必要で、地道に努力しなければなりません。今は板の仕事をしっかり身につけ、次に煮方の仕事を任せてもらえるよう精進したいと思います。ひと通りの仕事が一人前にできるようになり、もし縁があって自分の店を持てるようになったら、両手で届くくらいの小さなお店で構わないので、気のいい常連さんに囲まれながら、楽しく仕事ができたらと思います。厳しい世界ですが、努力するだけの魅力と価値があります。もし興味があるなら、ぜひ挑戦してください。少しでも「面白い」と思えたら、その「面白さ」を突き詰めていくことで、その先に新たな「面白さ」が見えてきて、自分の世界は大きく広がるはずです。もし、その世界で私と出会うことがあれば、ぜひ一緒に仕事をしましょう。

調理場に飛び交う、不思議な言葉たち

和食の調理場では、独特の言葉や言い回しを使います。例えば、古い食材のことを「兄貴」、新しい食材は「弟」、食材を切ることを「包丁する」、煮ることを「炊く」、捨てることを「投げる」などと言います。こうした言葉を使うことに慣れると、日常生活でも無意識に使ってしまい、家族や友達など、周りの人に「?」と思われることがしばしばあります。

調理場に飛び交う、不思議な言葉たち
社名 有限会社 典座舎
本社所在地 東京都新宿区神楽坂6-36-1 神楽坂ビル302号
TEL 03-5579-2566
主な業務内容 飲食レストラン経営・飲食コンサルティング
ホームページ 丸の内一丁目しち十二候のホームページへ

#動画で見る

#バックナンバー

目に見えないところで、世の中を支える仕事。#74

目に見えないところで、世の中を支える仕事。

プラスチック材料を加熱して溶かし、金型に流し込んで部品を成形する、プラスチック成形。産業機器や工作機械、医療機器など、社会を支える重要な分野で利用されているさまざまなプラスチック部品を手がける有限会社…

詳しくはこちら

自分が納得できるか。そこを基準に、技能を突き詰めていく。#73

自分が納得できるか。そこを基準に、技能を突き詰めていく。

厚生労働省では、年に一度、卓越した技能を持ち、その道の第一人者とされる技能者の方々を「卓越した技能者(現代の名工)」として表彰しています。伝統木造住宅、社寺建築等に携わり、技能グランプリで金賞を受賞す…

詳しくはこちら

こだわりと技術が詰まった、クリエイティブな仕事。#72

こだわりと技術が詰まった、クリエイティブな仕事。

プレス機械に製品の原型となる金型を設置し、金属の板材に圧力を加えて成形するプレス加工は、自動車や精密機械など、幅広い分野の製品や部品の加工に利用されています。金型設計からプレス加工までの一貫生産体制で…

詳しくはこちら

知るほどに終わりがない、奥深さが魅力。#71

知るほどに終わりがない、奥深さが魅力。

東京都では、年に一度、都内に勤務する技能者の中から極めて優れた技能を持ち、他の技能者の模範と認められる方々を「東京都優秀技能者(東京マイスター)」に認定し、東京都知事賞を贈呈しています。今回は、令和5…

詳しくはこちら

経験を積みながら、削り方を工夫し、加工法をアップデートしていく。#70

経験を積みながら、削り方を工夫し、加工法をアップデートしていく。

工作機械を使って金属材料を削り出す切削加工は、精度の高い加工が可能で、自動車や航空機、医療機器、半導体製造装置などの部品製造に利用されている加工方法です。高精度部品の切削加工を手がけ、創業から約70年…

詳しくはこちら

お客様に長く愛される一着を、丁寧に縫い上げていく。#69

お客様に長く愛される一着を、丁寧に縫い上げていく。

紳士服の製造は、高級紳士服に分類される個別職人仕立てによる「フルオーダー(Full Order)」と、既製服と呼ばれる工業生産による「レディーメード(Ready Made)」に大きく分かれます。今回、…

詳しくはこちら

全身全霊で石を刻み、時を超えて残るものを手がける。#68

全身全霊で石を刻み、時を超えて残るものを手がける。

石材施工は、建築・土木工事をはじめ、お墓や石碑、石垣、花壇など、暮らしの身近なところで使われる石材の加工やその設置工事を行う仕事です。工具を使って手作業による石材加工を手がける有限会社協和石材工業所の…

詳しくはこちら

学校給食環境を整え、子供たちの食と笑顔を支える。#67

学校給食環境を整え、子供たちの食と笑顔を支える。

育ち盛りの子供たちの健やかな成長を支えるため、学校給食はとても大切な役割を担っています。安心・安全・快適な学校給食環境の実現を目指し、調理機器や備品の提供、厨房設備の設計・施工を担う新日本厨機株式会社…

詳しくはこちら
  • はたらくネット
  • ものづくり・匠と技の祭典2023
  • 東京マイスター
  • 技のとびら
  • 東京都職業能力開発協会
  • 中央職業能力開発協会
TOPに戻る
TOPに戻る2